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松川と花巻
「松川ぁー」
「なに、花」
「すきー」
「知ってる」
花巻は意外と甘えただ。騒々しい主将や副主将の前では比べ物にならないくらい大人なのに。
松川に対して言う、花巻の「好き」は一種の合図。好物が欲しいとき、振り向いて欲しいとき、抱き締めて欲しいとき、キスして欲しいとき。色々ある。
「松川とキスしたい」
「言わなくてもしてやるべ」
ちゅ、と甘く優しい音を立てる。額、頬、耳、瞼、手、唇…愛おしそうに優しいキスを落とす。
花巻が甘えたなのは寂しがりやだからだ。両親は共働きで、幼い頃から家に一人でいることが多かった。花巻の姉はしょっちゅう友達のところに遊びに行くのだが、彼はあまりそういうことがなかった。
「松川、好きだよ」
「ん、俺も花が好きだ」
松川が花巻をぎゅ、と抱き締めてやれば満足したように笑った。
ああ、愛おしい。俺にしか見せない表情。こんな子供の顔を、及川たちは知らない。
ちょっとした優越感に浸っていると「松川、ニヤニヤしてる」と花巻にツッコミを入れられた。
title by 切れ端