及川と岩泉




パッと映し出された画面に懐かしい顔が現れた。

「お、トオルじゃん」
「ああ、及川徹だろ?岩泉が同じ高校じゃなかったっけ」

話を振られ、反射的に首を横に振った。高校卒業以来、及川とは会っていない。連絡もしていない。上京するときに、及川のアドレスも電話番号も電話帳から消した。俺なりのけじめだ。

及川とは幼なじみで、親友みたいなものだった。中学の途中から、それ以上の関係を持った。俺は及川が好きで、及川は俺を好きだった。

それだけで十分だった。いずれ日本代表になるであろう及川を縛るわけにはいかない。俺は及川の過去だけに存在する人間でいい。それが、あいつのためになる唯一のことだ。


テレビをぼんやりと眺めた。海外での試合を終え、帰国直後のインタビューだ。心身共に相当疲れるだろうと他人事に考えていた。

ルームメートたちはテレビに夢中で、移動する気配を全く感じない。いつしかの及川にそっくりだ。まだ及川を思い出すということは、自分の中で想いを絶ちきれていないということか。

『岩ちゃん、観てる?』

懐かしい響きだった。テレビに引き寄せられるように画面を見た。

『岩ちゃん、今どこにいるの?連絡くれないでさ。しかも番号とかアドレスとか変えちゃって。あ、今、絶対「テレビで何言ってんだクソ川!」って思ったでしょ』

へらへらと笑っているようで目からだけは怒りを感じた。いや、怒りではないかもしれない。

『観てるなら今すぐ電話して』

悪いな及川。俺の電話帳にお前は存在しないんだ。俺はお前の恋人でも友達でもない。赤の他人なんだ。

「岩泉、どうした?どっか悪い?」

え、と言葉を出そうとして気がついた。涙をポロポロと落としていた。それは気持ち悪いくらいにキラキラと輝いていたように見えた。



title by レイラの初恋


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