及川と岩泉



及川徹は俺の幼なじみだ。眉目秀麗、勉強も運動もできる。チャラチャラしてはいるが、根はいい奴なのだ。

そんな俺の幼なじみの及川は、女と付き合っては別れ、また付き合ってはまた別れ、と繰り返している。女癖が悪いというか、なんというか。本人としては大事にしている、らしいが結局フラれて俺のところに泣きつく。

放っておけば良いのだが、とことん俺も及川には甘いらしい。ただ、甘いように見えるというのは周りからの話だ。

俺がどうしようもなく及川に甘くしてしまうのは、俺が友達に向ける以上の好意を及川に対して持っているからだ







「岩ちゃん、東京に行ってもちゃんと連絡しなさいよ。メールでも電話でもいいからさ」
「お前は俺の母親か」
「いつしかの俺のセリフ!」

俺は志望校を東京にある大学にし、合格した。及川は推薦で別の大学を受けた。それを知っていたからこそ、別の、遠くの大学を選んだ。

及川は天才ではない。だが、バレーのセンスはもちろん、他人よりもずっと努力家だ。きっとこいつは日本代表になるのだろう。友達として誇らしい。

だから、俺の好意を告げるわけにはいかない。ここで絶ち切る。もうすべて終わりにする。もう二度と会うことはないだろう。


「俺、岩ちゃんのこと好きだった。知ってるよ、岩ちゃんも俺を好きだったこと」
「及川」
「ちゃんと連絡してよね」
「……ああ」

及川に背中を押され、新幹線に乗り込む。泣きそうなのに無理をして笑う及川に胸が痛んだ。

「いってらっしゃい、岩ちゃん」
「…ああ」

扉が閉まるのと同時に目を閉じる。車両が動き出したところで、携帯のある画面を開いた。

─削除しますか
─yes


「じゃあな、及川。元気でな」




title by サンタナインの街角で


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