薬研の手は綺麗だ。薬研自身の記憶が詰まってる。薬研の手は酷い火傷の痕が残っているけど、それは薬研が戦ってきた何よりも確かな証拠。

オレの手は…。

オレの手は自分の主を殺した汚い手。オレは主の腹を斬らせてしまった。なぜオレは国の宝と呼ばれているのだろう


「おーい厚、飯だってよ。…どうしたよ、ボーッとしちまって」
「ちょっと考え事してただけだ。早く飯食いに行こうぜ」
「…おう」

オレは薬研のことは好きだけど、薬研を見るとオレの心に雲が掛かる。何て言えばいいか分からないけど、胸の辺りがモヤモヤする。戦場では特にそうなりやすい。




「厚、お前俺っちのこと嫌いなのか?」
「え、何で…」
「俺っちのことよく避けるからさ。何か嫌なことしちまったなら謝る」
「ち、違うから」
「じゃあ、何なんだよ」

言葉に詰まる。薬研のことは嫌いじゃないしむしろ好きだ。兄弟としての一線を越えてるくらい。そんな薬研に、言えるわけがない。

「…俺、厚に嫌われんのだけは嫌なんだ」
「き、嫌ってなんかない!」
「でも、話してくれねえってことはやっぱり…」
「違う、違うんだ……オレ、ちょっと悩んでるって言うか、何か、変なんだ」

薬研と横に並んで座った。言わないで薬研とギクシャクするのは嫌だったから、思ってることを少しずつ話した。


「なーんだ、俺っちのことが嫌いな訳じゃねえんだ!」
「さっきからそう言ってるだろ!」
「…まぁさ、そういうこともあって当たり前なんじゃねえの?俺っちも勝手に厚と自分を比べて一人で落ち込むときあるし」
「え、薬研が!?」

オレがモヤモヤしているように、薬研も悩んでいるようだった。薬研は自分の存在自体が曖昧で、兄弟たちと違って戦場に居たということに時折頭を抱えていたらしい。

「悩むっつーのは、人間なら当たり前らしいぜ。俺たちも今は人間みたいなもんだし、こういうのもたまにはいいだろ」
「…時々話そうぜ、お互い」
「さ、飯だ飯!冷めちまう」

さっと立ち上がって急ぐ薬研の背中を見ていたら、何だか元気が出た。





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