はじめての
仁王と付き合いはじめて三ヶ月が経った。
部活が終わり着替えていると仁王に声をかけられた。
「このあと、俺の家に来ないかの」
仁王とはよく互いの家に遊びに行くことがあった。
だからこの誘いもいつも通りのことだと思った。
部屋でゲームしたりお菓子食べたりしながらゴロゴロと過ごすんだな、なんて考えていた。
でもそんなのは仁王のこのあとの一言で消しとんだ。
「親が帰るの遅くなるらしいんじゃ…」
意味がわかった途端、自分でも顔が赤くなるのがわかった。
すると丸井はわかりやすいの、と仁王にニヤリと笑われた。
…そういうこと、だよな。
俺たち付き合って三ヶ月も経つんだし、いや、普通のカップルがどの程度の時間を経てそういう行為に及ぶのかなんてわからないけれど…。
仁王とは付き合っているとはいえ、唇が触れ合うキスしかしたことがない。
俺だって、仁王ともっと近づきたいって思っていた。
その誘いに乗ったら…
今日、仁王の家に行ったら、こいつとの距離がもっと近くになる?
想像すればするほど鼓動が激しくなる。
俺は真っ赤になった顔を隠すように下を向きながら言った。
「…行く」
一緒に仁王の家に向かう間も俺の心臓はうるさいままだった。
隣を歩く仁王はどんな顔してるのかと気になったが、恥ずかしくて顔を上げられなかった。
…直視できねぇよ
玄関を通ると本当に家にいるのは俺と仁王の二人だけだった。
弟と姉も遊びに行ってしまったままらしい。
「丸井、そうガチガチになりなさんな。何か飲みのもでも持ってくるぜよ。先に部屋に行っててくれんかの」
「あ、あぁ…」
何度来たかわからないほど通った仁王の家の構造は把握している。
仁王の部屋だって迷わずたどり着くことができた。
…つか、仁王から見てもわかるほど俺は緊張していたのか…。
落ち着けなくて仁王の部屋をキョロキョロしてしまう。
見慣れた部屋も今日は新鮮に感じられる。
とりあえず座ろうと思ってベッドに手をついたが、これから行われるであろう情事を意識してしまっているせいか、ベッドにいることができなかった。
仕方なく床に座っていると、仁王が飲み物を持って戻ってきた。
「またせたの」
「いや…」
「甘えん坊な丸井が寂しがってないか心配したぜよ」
冗談だとわかってはいるが、ドキドキしてしまう。
仁王は飲み物を机に置き、俺の隣に腰をおろした。
「どうして床なんかに座っとるんじゃ?いつもの丸井ならベッドに自分の部屋のように転がっとるじゃろ」
「…っ!な、なんとなく…!」
こいつ、俺のそんなところもちゃんと見てたんだ…
「もしかして、ベッドを意識してるのかの?」
「……」
これには何も言い返せなかった。
なんだよ…心の中が全部見透かされているようだ。
女でもないのに仁王の言葉一つ一つにドキドキして…キモチワル…。
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