そのクセがだいすきで
by naruto
馬鹿にされてるのに、
呆れられてるのに、
どうしてこんなに愛おしいんだろう。
「馬鹿だね、お前は」
そう聞こえるときはいつも、頭にポンとぬくもりを感じる。
口布でよく見えないけれど、目尻を下げたあの優しい笑顔。
呆れながらも笑って頭を撫でる。それがカカシ先生のクセだった。
どうして、それを見るたびに、先生に触れられるたびに胸の奥がドクンと響くんだろう。
「ば、バカってなんだってば!」
なんだか聴こえてしまいそうで慌ててそっぽを向いた。ドクンと鳴った鼓動が聴こえてしまうのが何故か恥ずかしいことだと、とっさに思ってしまったから。
「まぁいじけるな。お前のソレは今に始まったことじゃないでしょ」
「キーーッ!いつも馬鹿みたいに言うなってばよ!」
むっとしたのに止まらない鼓動。先生の目は見れないまま。
オレ、どうかしてるってば。
こんな風になったのはつい最近。…ていうか、気付いたのがつい最近でふとした時におかしいなって思っていた。だけど別に気には止めてなくて、でもだんだんドクンと鳴る胸の音は大きくなっている気がして。
なんだかきゅっと心臓を弱く握られたみたいに苦しくなるときだってある。
そういうときはいつもカカシ先生が隣りにいて、もしかして先生のせいなんじゃないかって気付いたのがつい最近。
(はぁ、なんかモヤモヤするってばよ…)
いつもいつも、こんな感じ。胸の中の得体の知れないモヤモヤは消えることなく大きくなるばかりで。
先生のそのクセ、直してくれってばよ。
そう思ってしまうほど、なんだか苦しい。
(はあ、)
心の中でついたため息のはずが、本当についていたらしくいきなり先生の顔が近付いてきた。
「なんかあったの」
いつもより近い距離で鼓動が早くなった傍らで、心配そうに顔を覗く先生の。
片っぽしか見えていない瞳が、綺麗だと思った。
「…別に、何でもないってばよ」
男に綺麗だとか、そんな言葉は変なんだろうか?それでもその言葉しか浮かばない。
手を伸ばしても届かないみたいに、どこか違う世界のものみたいに。
それほど綺麗で。
オレには到底、手に入れれないとか、そんなことを思ったら何故か無性に悔しくなった。
「先生さあ、」
「ん?」
「手に入んないって分かったとき、悔しくなるってことはどういうことだってば?」
「は?」
「すげえ、悔しいんだ」
口布で表情は見えないけれど、多分先生は意味が分からないといった顔をしているんだと思う。
それでもオレが真剣に問えば、その綺麗な瞳を向けて答えてくれるんだ。
「そりゃやっぱり、"欲しい"ってことなんじゃないの?」
真っ直ぐと目を向けてそう言った先生にまたドクンと鼓動が鳴った。
だけどもうその意味が分かった。
モヤモヤしていたものがスッキリと消えてなくなった。
先生が今、教えてくれたから。
(オレは…先生が欲しいんだ。)
「カカシ先生!さんきゅー!」
「は?」
「うん!すげえスッキリしたってばよ!」
「なんなの、いったい」
「いやー!清々しいってば!」
伸びをして空を見上げる。夕焼けが先生の銀髪に反射してキラキラ光っている。
「これもオレがもらうってば!」
にししっと笑いながらいまだ呆気にとられている先生に宣言して。
そうすればよく分からない…と言ったように呆れながらまた、ポンと降ってきたぬくもり。
「ホント馬鹿だね、お前は」
聴こえた声はいつもみたいに呆れながらも優しい音色。
胸の中のモヤモヤの意味も、ドクンとなる鼓動の意味も。
ようやく分かった瞬間に、その声もぬくもりも、カカシ先生のそのクセ自体、本当は大好きなんだと知ってしまったオレは。
今以上に胸が苦しくなる日が来ることも、信じられないほど先生を好きになってしまうことも今はまだなんにも知らずに。
「へへ」
「突然何笑ってんのよ、お前、なんか変だよ」
…だってカカシ先生が隣りにいるから。
なんて、当然言えるわけがないから。
「なーんでもないってばよ」
はぐらかしてもう一度笑う。
ワケが分からず首を傾げているカカシ先生のすぐ隣りにいれることが、なんだかすごく嬉しかった。
continue...
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