陸ちゃんはあの後日向先生に呼び出され(笑うところ)、奏くんと二人で仲良く学食を食べていると、ふと思い立ったように奏くんが顔を上げる。
「どうしたの?」
彼にしては珍しい行動に、思わず声をかけると、切れ長の瞳をゆっくりと私の方に向けた。
「なまえの歌、聞きたい。」
にこりと(今お説教されている)誰かによく似た笑顔で言い放った彼に、「突然どうしたの?」の聞けば、「なんとなく。」と返ってくる。 彼と二人で話していると良く思うこと。
キャッチボールって難しい。
∴ ∴ ∴
「で、何を歌えばいいの?」
結局私に拒否権などなく、二人で中庭に移動する。 私はアカペラで歌うことになりそうだとしょぼしょぼ歩いていたのだが、途中またふっと思い立ったように立ち止まり、「ちょっと待ってて」とだけ言い残して教室へと走って戻った彼は、どうやらギターを取りに行っていたらしく、「アカペラ、嫌だろ?」とだけ言って私の手を握った。 不覚にも少しときめいてしまったが、仕方ないと思います。
「一人でぼそぼそ、何言ってるんだ?」
ひょこっと顔を下から覗き込んできた奏くんになんでもないと言って、近くの大きな石に座る。
「奏くん、ギター弾いてくれるんだ。」
彼はあまり普段音楽的なことをするのが好きじゃないようで、課題なんかじゃないと歌すらまともに歌ってくれないような人なので、わざわざ私のためにギターを弾いてくれるとは思わなかった。 いつも無表情な彼は、感情表現さえ貧しいのだが、ずっと一緒にいたからなのか、小さな変化でも気が付くようになった私には、彼が優しく微笑んだのがわかった。
「俺が歌ってほしいって言ったんだから、当然だろ?…それになまえや陸のためなら、俺はいつでも弾くよ。」
滅多に聞かない彼の(天然性の)甘いセリフに思わず目をそらし、話を切り替えようと慌てる。
「照れてる?」
「照れてないよ!?え、照れるって何に?!」
お説教が終わった後、私たちを見つけた陸ちゃんが、明らかに挙動不審になった私を見て大爆笑したのは秘密である。
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