「そういえばBクラスにやけに歌うまい奴いたりするか?」 不意に翔ちゃんが私に視線を向ける。 「特別うまいってわけじゃないけど、みんなうまいよ?」 「いや、ずば抜けて上手い奴いるだろ?」 「うーん…そんなに上手いならBクラスにはいないんじゃないかなあ」 やけに食い下がる翔ちゃんに仕方なく記憶を巻き戻していると、ガシャーンという音がしてなにやら巨体が飛び込んできた。 「それは彼らのことデース!」 …言わずもがな学園長で、ぽかーんとしながら見ている私たちのことを見下ろしながら、「ミーを見つめてもダメダメよ!」なんてぷりぷり怒りはじめた。
はっと我に返った翔ちゃんが「…彼ら?」と呟いたと同時に陸ちゃんに向かって学園長が楽器ケースを投げる。 「俺のバイオリン…?」と陸ちゃんが珍しく驚いた顔をしていると、「入学試験の時に送ってきた曲を演奏してくだサーイ!」と学園長が言う。 入学試験の曲って秘蜜のこと? どうしようかとおろおろしていると陸ちゃんはすでに楽器を調律し始めていて仕方なく私もピアノの前に座る。
「入学試験の曲って秘蜜だよな?」と小声で話し掛けて来る陸ちゃんに軽く頷き、ピアノに手をおく。 他のパートは打ち込みだから、音が少ないのは仕方ないだろう。 クラス中の視線が集まるのを感じながら息を吐く。 やる以上は完璧に。 それが私のモットーだ。 陸ちゃんがこちらをちらりと見たのを確認してから、音を紡ぐためゆっくりと口を開いた。 さあ、はじめようか。
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