「落ち着いたか?」


結局彼は15分間ずっと頑張ってくれました。


「はい、もう大丈夫です。なにかもう色々ごめんなさい…。」

何回も失礼なこと考えてて本当にごめんなさい。あれ、これ何回目?

「いや、受けとめきれなかった俺も悪いって。だから気にすんな!」

そしてにっと笑った彼に私もつい微笑む。


「そうだ、名前なんっつーの?俺の名前は来栖翔!」

まさか王子から聞いてもらえるとは思わなかった。
わあ、三十路ちょいすぎのお姉さんうれしいなー。
…ちが、棒読みじゃな…、ショタコンでもな……。
肉体年齢では犯罪じゃないもん!


「私はみょうじなまえです!よろしくね!」


「おう!よろしくな!」


わあ、よろしくしてくれるってよ!
つかなにこの子さっきから超可愛い。
可愛い可愛い可愛いけど可愛いって言ってたら怒られるよなあ、でも可愛いなあ。

ひたすらもぞもぞと耐えながら草むらを見ると、ぱくぱくしてる陸ちゃんがいた。金魚みたいだが、なにか言いたいらしい。


「も う じ か ん だ か ら ぼ う し わ た し て か え っ て お い で」


小さいつを理解してあげた私優しいと思う。

ゲームみたいにうまく風が吹いてくれるわけではなかったので切り傷覚悟で木に手をかけると慌てて翔ちゃ…来栖君に止められた。


「そんなことすると危ないだろ?!つーか色々見えてるんだよ!」

若干照れてる彼にでれでれしながら帽子を取るとタイミング良く風が吹き、片手だった私は下に落ちる。


あ、やばい骨折するな、これ。
なんて思ってたのに、変な音と背中に暖かいものの感触がするだけで痛みはなかった。


きょとん、と振り返ると翔ちゃ…来栖君がはあ、と溜息を吐いた。


「…怪我してねーか?」

「うん、平気。」


ふわっと降ろされて抱えられてたことに気づく。


なんか今の少女漫画みたい。

ぽすっと彼の頭に帽子を被せながらそういえば、と思い出す。


彼は王子って呼ばれたがってたっけ?


「ねえ、翔君。」

「ん、なんだ?」

「私もう行くね、」

「おう!気をつけろよ!…それから、帽子、…ありがとな。」


照れながら言う翔ちゃ…もう翔ちゃんでいいや。可愛いなあ、でもほら、あれだ、彼に可愛いはNGワードだから言葉を選んで格好良く立ち去ろう。


「受けとめてくれた時、王子様みたいで格好良かったよ!じゃあね!」



そういいながら振り向かずに陸ちゃんのところまで走っていって抱き着く。

隠した言葉に気づかないでくれよ…!


「ただいま!」


「おかえり。」


にっこり笑いながら私の頭を撫でてくれる陸ちゃんは、やっぱり一番のお友達です。あれ、作文?


 ∴   ∴   ∴


後ろを振り向かなかった私は、気づけなかったが、陸ちゃんはなにかに気づいたらしく、やけに楽しそうだった。


「どうかしたの?」


「いんや、なんでもないよ。」


…変なの。




___________

伏せた文

「受けとめてくれた時だけ、少女漫画の幼少時代の王子様みたいで凄く可愛かったし、ちょっと格好良かったよ!じゃあまた夢の中でね!」
要は可愛かったよって話。








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