♪出会いの音色 ――ふと、目を覚ます。 いつの間にか意識を失っていたらしく、ぼんやりとした視界で、何があるのか確認しようとした。どうやら草の上に転がされていた様で、さわさわと風で草が揺れて、耳が撫でられてくすぐったい。 広がるのは、肌色。……嫌な予感がしてたまらない。 次に、赤色が見えた。 ……赤色? 黒や翠や水色ではなく……赤色? 目を凝らして見る。徐々にそのモノがはっきりしてくる。赤黒い髪に、目付きが悪く鬼と例えられるような鋭い目。 その距離、僅か数センチ。 「嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」 「うぐっ!?」 咄嗟に膝で腹を蹴る。固い筋肉の感触がした。 ――これが、一番最初の出会い。 出会いの音色 「あ――……。」 蹴った、のは良いものの。立ち上がってから、ようやく椿は気付いた。 腹を押さえてうずくまるその人は、全く見ず知らずの他人であった事に。いや、キスする二秒前の位置に他人の顔があったのもどうかと思うが、理由は何であれ暴力を奮ってしまった事に、罪悪感が込み上げる。 「ご、ごめんなさい!大丈夫!?」 「……いや、大丈夫だ」 椿が顔を覗き込もうとすると、少年もまた起き上がる。ポリポリとばつの悪そうに頭を掻いていたが、椿はそれどころではなかった。 (でかっ!?) 初対面の人物に思う事にしては結構失礼だが、そう思わずにはいられなかった。 目付きの悪い目に加え、そこまで低くない椿が見上げなければならなくなるほどの長身。一睨みで魔物も震えながら逃げ出しそうな人が、どうして自分の超至近距離にいたのか不思議で仕方がない。 どう訊こうかと思っていたら、相手は何を思ったのかこちらの頭に手を伸ばして来た。また何かされるのか……と少し身構えるが、軽く髪に触れたと思ったら、すぐひっこんだ。その手には、数センチの草が摘ままれていた。 「頭に草が付いていたから取ったんだが……駄目だったか?」 不思議がっていた椿の心を察したのか、少年が言う。そのまま首を傾げたので、椿はまず外見のイメージとの違いに驚いた。もっと鬼のような人物かと思ったら案外穏やかだった。人を見掛けで判断するなとは、よく言ったものだ。 「あ、ううん、どうもありがとう。……えーと……あの、まずどうしてあそこまで顔近付けてたんですか……?」 そう、何よりもまずそれだった。普段某変態から色々されてる事が災いして蹴りを入れてしまったが、何故顔を近付けてまで自分を見ていたのか。 「……病人とか怪我人とかじゃないかと思って、異常がないか確認しようとしていたんだ」 「だからってあそこまで!?あ、あたし最初襲われてるのかと……!」 「襲われ……?俺は別に、お前から何か取ろうなんて思っていないが……」 (この人何か勘違いしてる――――!?) 心の中でツッコミをすれば、少年はきょとんとする。椿は滅多に目にしない天然という強敵に頭を抱えた。 「……じゃ、じゃあ名前は?」 「俺か……?俺は更地陸弥だ。お前は?」 「あたしは奥宮椿。陸弥……さん、はどうしてここに?」 更地陸弥。やはり、聞き覚えのない名前だった。 明らかに相手、陸弥の方が年上のような風貌なので、一応はさんを付ける椿。見るからに戦士っぽい格好だが、ゲームの中の人だろうか。 そう尋ねると、陸弥は悩ましげに眉を潜めながら首を傾げた。 「よく……分からない」 「え?」 ゲームの中の人物だと思っていた椿は、陸弥の答えに一瞬頭が追い付かなかった。陸弥が続ける。 「ゲームをやろうとしたら飛ばされて、真っ暗なところに行ったと思ったらまた飛ばされて……。目が覚めたらいつの間にかここにいて、お前が寝ていたんだ」 「え……ゲ……ゲーム!!?ゲームって、もしかしてあの4人用で胡散臭い人が配ってたってやつ!?……あ、そういえば帰ったらゲームのお金取り立てられるんだった……!」 がっくりと肩を落とし、ああいう業者はきっとぼったくってくるんだろうなぁ……と虚しく呟く椿。そんな様子を不思議に思い、陸弥はひょいと顔を覗きこんだ。 「……どうかしたのか?柊」 「柊ー!?」 自分の名前とは近いようでかけ離れた単語を聞き顔を上げると、目を開いて固まっている陸弥がいた。きょとんとしている様子から、やはりこの人は天然なのだと再確認した。わざとじゃないだけタチが悪い。 「ど……どうした?」 「いや、どうしたじゃなくて……あの、陸弥さん、あたしの名前は柊じゃなくて椿です!そりゃ柊と椿は木へんとか季節ってところは一緒だけど全然違いますからね!?」 「……分かった、柊」 怒られた子供のようにしゅーんと肩を落とす陸弥。それでもやはり名前は違っていた。 (……中身と外見のギャップがすごいなぁ……) 椿がしみじみと思った事は、ごもっともであった。 「それにしても、ここはどこだ?」 キョロキョロと陸弥があちこちに視線を動かしながら言う。森の中だという訳ではなく、短い草が広がる草原のような場所。しかし、草原に相応しくない物が、椿の目に映った。 「り……陸弥、さん……。あれ、何ですか……?」 恐る恐る、陸弥の後ろを指差す椿。不思議に思いながら後ろを向くと、そこには信じられない物があった。何故、今まで気付かなかったのか。まあ、陸弥のせいだとは思うが。 そこには、いかにもラスボスがいますと言わんばかりにおどろおどろしい雰囲気を出している城が建っていた。 毒が塗り込まれているのではないかと疑わしくなる紫色の城壁に、古く少々錆びている黒い鉄の門。城壁より城の方が高いためその城は見上げればよく見える。が、その城も真っ黒い煉瓦で造られており、ところどころに赤い染みがあるのが見える。城壁も同じだ。門にはリアルそのものな骸骨が飾られており、爽やかな草原が、そこだけ地獄の世界と化していた。草原は昼間なのに、そこだけ夜のような雰囲気を醸し出して……いや、実際、まるで太陽が遮られたかのように暗かった。 「……城だな」 「……反応薄いですね陸弥さん。ってそうじゃなくて!え……もしかして、あたし達これからもうボスと戦うの!?なんかそれっぽい雰囲気全開なんだけど!?」 王道RPGを売りにしていた割には無茶苦茶王道から外れてるじゃん……!と心の中でツッコミをする椿。横で陸弥が不思議そうに椿を見つめるが、心中を明かしたとしても恐らく伝わらないだろう。 と、その時、急に陸弥が険しい表情になって城壁の右角を睨み付けたので、椿はそれに驚きながら問う。 「ど、どうかしたんですか?」 「……柊、少し静かにしていてくれ」 (椿なんだけどな……) じっと静止する陸弥に、椿はまた天然発揮するのかと若干遠い目になっていた。刹那、複数の足音が聞こえて来たので、RPGにありがちな弱い魔物かもしれないと戦闘体制へと入った。 すると。唐突に、陸弥が猛スピードで駆け出した。 「えぇぇぇ!?ちょっ、陸弥さん!?」 城壁の角に向かって、猪の如く駆け出し、その勢いのまま城壁の角を曲がろうとする。椿もそれに追い付こうと走り出した。 「――陽菜!!」 素早く勢い良く角を曲がって一番最初の言葉はそれだった。だが、椿にその言葉の意味は通じるはずもない。 (え?何ヒナって……?) 頭の中に様々なヒナが思い浮かびながらも、椿は陸弥と同じようにして角を曲がる。 そこにいたのは―― 「お、よう椿!相変わらずイジリーな顔してんなー。そしてそっちの兄ちゃんはあれか?コワモテっぽいけど敵か?」 「おい陸弥!今度は陽菜ちゃんもいるんだからがっかりすんじゃねーぞちくしょおぉぉ!」 「あ、陸弥っ!大丈夫……!?怪我してない!?」 「きゃあぁあーっ!つっばきさぁぁぁぁん!!もう一度会いたかったわ相変わらず太股ラインサイコォォォォ!!」 「最初と最後ツッコミ所満載――――!!」 途端に賑やかになった草原に、椿のツッコミが広い空に響き渡った。 「イケメンって最高よね!!!!」 「急に何!?」 ぐっと拳を握り、太陽より何よりも輝いた表情をしているのは、緑の髪をなびかせた美しい少女だ。椿が思わずツッコんでしまったが、紛れもない椿と共にやってきた仲間の一人である。 「だってぇぇ目が覚めたら知らないイケメンがすぐそこに佇んでいたのよお!?これに食いつかないなんて腐女子失格だわ!!もう隅から隅まで舐め回したいッッッ!!!」 「テメェはまず人間失格だ」 横にいた透き通った水色の髪の男子からゴッ!と的確にカカト落としを食らっても、いやんダーリンったら、と頬を染めて恍惚としているだけで、ダメージはちっとも入っていないように見える。 香山凛菜と鏡華壱。訳あって一人は男になってしまったものの、椿の知り合いに他ならなかった。 「いやーしっかし、初っぱなこんないかにも!なところに飛ばされたとか、王道とか言っておきながらゲームもなかなかギャップ勝負をしてくるよな!」 「勝負!?」 なかなかやるじゃねーか!とケラケラ笑っているのは、やはり椿の仲間である楓粋有紀である。かわいらしい顔と黒いツインテールとは裏腹に、男らしい口調とよく分からない発言を内に持っている。 盛り上がりまくっている仲間達とはよそに、椿は先程出会った陸弥の方を見る。オレンジ色のツインテールの少女に話しかけているのが見えた。 「良かったー、あたし、目が覚めたら陸弥がいなくてすごくびっくりしたんだよ……」 「大丈夫だ。もう陽菜から離れたりしないからな」 「うんっ」 後暗い城の前だというのに、心なしかそこだけ暖かい空気が広がっているように思える。にこにこと温和に陸弥にほほ笑みかける陽菜と呼ばれた少女に、椿は本来のツインテールの在り方を見たような気がした。 「あの、すみません」 「え?」 思わず声が聞こえた方へ振り向くと、優しい笑顔でにこりと微笑まれた。短い黒髪に、爽やかな甘いマスク。格好こそ忍装束だが、物腰が柔らかいこの態度。あまり椿の周りにはいないようなタイプの人間だった。 「陸弥を連れてきてくれてありがとうございます。ところで、あちらとはお知り合いですか?」 青年は、手のひらを有紀達の方へと向ける。質問の意味をどことなく分かりかけて、あー、と椿は頭を抱えそうになった。 「あの……もしかして何かやらかしましたか?あのメンバーの誰かが……」 「やらかした、と言うより……見られてしまいましたから、どうすれば良いのか」 青年の視線の先には凛菜がおり、向こうもまた息を荒くしてこちらを見ながらヨダレを垂らしかけている。直後に後ろから壱の蹴りが入ったものの、椿は飛び上がりそうになった。頭を下げる。 「ほんっとごめんなさい!!ほんとうちのメンバーまともじゃないんで!!後でちゃんと言っておくんで!!」 「言っても聞くような奴じゃないぞ知ってるだろ椿!!」 「言われる側は黙ってて!!!」 誇らしげな顔で近寄ってきた有紀に声を上げると、椿は青年の顔色を伺う。小さく苦笑していた。 「大変ですね」 「いや、もう慣れました……。ところで、陸弥さん達も知り合い同士なんですか?」 「はい。僕は武者小路晃太郎といいます。陸弥と話しているのが日向陽菜ちゃんですね」 「晃太郎さん呼びました?」 「あ、ううん。ちょっと紹介してただけだよ」 とてとてと近寄ってきた、有紀より小柄なオレンジ色に、椿は酷使していた喉が癒されるような感覚を覚えた。陽菜は椿の顔を見ると、ぺこっと頭を下げる。 「日向陽菜です。陸弥から、柊さんはとっても良い人って聞きましたっ。ありがとうございます」 「あっ待って誤解してる誤解してる!あたしは奥宮椿です!つばき!」 「つばき……さん、ですか?」 「そうそう、良かった通じた……」 椿はほっと胸をなで下ろす。陽菜はうーんと考えてから、一人ごちて頷いている。 「でも、柊さんとつばきさんって似てるから、陸弥が間違えるのもしょうがないですね」 「全然まったく似てないと思うんだけどな……!」 やはり類は友を呼ぶようだった。陽菜が椿と話している間、陸弥はというと、草原の外れで体育座りをしていた、パーカーにジーンズというあまりにも周りと沿わない格好をしている青年を見つけていた。 「靖志、どうしたんだ」 「うるせー……イケメンばっか来やがって……イケメンなんて嫌いだ敵だ……」 「よく分からないが、向こうに戻らないと自己紹介も出来ないぞ」 『その通りだ貴様ら』 耳の奥から聞こえてきた、スピーカーを通したような籠った低い声に、その場にいた全員が顔を上げた。陸弥は靖志と呼ばれた青年を連れて、再び門の前に戻る。 『話が長い。ちっとも進まんではないか』 「俺は自重しないからな!」 「萌えが増えて黙っていられる方がおかしいのよ!」 「テメェらマジで黙れ」 主にテンションを上げている二人に対して、壱の拳が唸りそうになる。その横で、見上げていた陽菜がきょとんとしながら口を開く。 「おじさん、誰ですか?」 『おじ…………』 「お、ダメージ受けてるぞこいつ」 「言われて傷付くってことは本当におじさんの可能性が高いな」 「言わないであげて!気にしてるかもしれないから!」 有紀と靖志と椿が口々に言葉を発している中、陽菜は申し訳なさが込み上げ、しゅんとする。 「もしかして、お兄さんでしたか……?ごめんなさい」 『そうだ。ついでに、お兄さんの名前は魔王という。次からは気を付けるんだぞ』 「はいっ、魔王さん」 「すっかり陽菜ちゃんのペースに取り込まれてんじゃねーか魔王」 スピーカー越しの音声も、どこか教育番組のお兄さんのような雰囲気が増したような気がする。再び靖志のツッコミが入ると、おほん、と咳払いが聞こえる。 『このゲームについての説明をもう少しするために、私は貴様らをここへ呼び出した』 「律儀なんですね」 『これでも仕事だからな。まずはこれを貴様らにやろう』 晃太郎の相槌に、言うが早いか、8人各々のポケットやポーチが、淡い光に包まれた。数秒の後、光はすぅっと消えていったが、見た目だけは何も変わっていないように見える。 『今貴様らには、持ち物欄と100G、そしてこの世界で重要となるステータス端末を与えた。持ち物欄には無限に物を入れることが出来る。遠慮なく使うが良い』 「どう〇つの森のポケットと一緒ってことだな!」 「しっ!」 理解した!と親指を立てる有紀の近くでは、既に晃太郎は「ステータス端末」をポケットから取り出していた。スマートフォンとよく似ている形のそれ。晃太郎のものは黒いケースに入れられており、電源を入れて起動させる。上空から見た周辺の地図がドット絵で描かれており、小さな自分のドットが中央で点滅している。8人全員のドットが周りを埋めて、仲間の場所も分かるようだった。そのスペースが半分、もう半分は、ちから、ぼうぎょ、すばやさ、まほう、まぼう、たいりょく、まりょくの項目に、自分の能力が数値化されて載っている。レベルは1、次のレベルまであと15、と、黒い背景に白い枠と文字のドットで打ち込まれていた。試しにタッチしてみると、大きい枠が展開され、「じゅもん」と上記されている。しかしレベル1だからか、その枠はまっさらだ。 『RPGではどんなに多くのゲームを制覇してきた猛者だろうが、全員レベル1から始まる。今の貴様らはレベル1だぞ。世界を回って強くなり、8つのメロディスポットを踏破し、おんぷのかけらを各々端末に入れたらまたここに来い』 「……お使いの予感がする」 「RPGなんてどれもお使いゲーだからしょうがねーよ」 渋い顔でぼそっと零れた晃太郎の本音に、靖志は肩を竦めた。 『世界を救うか否か、それは貴様らにかかっている。貴様らは今勇者となったのだ。街行く人々には普通の人間としか認識されないが、物語の主人公は紛れもない貴様らだ。強くなれば特技も覚え、呪文も唱えられるようになるだろう』 ズズ、と地面が動く音がする。足元が振動に揺れ始め、8人の後ろの大地が、切り離されてゆく。いや、沈み始めたと言うべきか。僅か数秒の間に、自然の物理学など一切無視をされて、8人は切り立った崖の前に立たされた。波が岩壁にぶつかり、削っていく。かかとが浮きそうになり、靖志は一歩前に出た。 「……これ、どうなるんだ?」 「いやどうなるって」 『さあまずは習うより慣れよ!!勇者共、今こそ旅立ちの時!』 マントがはためき、風が大地を大きく横切る。 耳がちぎれんばかりの突風に、寄り場もなくレベルも1である8人の体は、為す術もなく、崖の下で泡を吹く海へ――チリのように投げ出されるしかなかった。 「えええええええええ!??!?」 「嫌ああああ!最後に!最後とは思ってないけどせめて!最後に出来ればイケメンとのチッスを見たかったけど!!仕方ないわ……ダーリンと命より熱い口づけ」 「落ちながらにじり寄って来るんじゃねえ!!」 平泳ぎにも似た動きでにじにじと寄ってくる凛菜の頭に、壱の綺麗な拳骨が、ごっ!と鈍く音を鳴らしてクリーンヒットする。上からの力が加わった凛菜は7人よりも真っ先に海の下へと消え、泡に飲み込まれていった。靖志の顔が白くなる。 「ぎゃーーーっ普通に女の子殺しやがったなお前ーーっっ!!」 「あいつはゴキブリよりしぶといからあれくらいじゃ死なねえよ」 「しれっとすげえこと言った!!」 「落ちる時くらい真面目にやらない!?」 とても今から海の藻屑となりかねないような人間達の会話には聞こえず、椿は壱と靖志に向かって声を張り上げる。 「まあまあ落ち着けよ椿、こういう時はソーメン食って落ち着くもんだろ」 「どこから出したのそのソーメン!?」 落ちながら浮力ガン無視状態で有紀はソーメンを啜っている。椿も落ちながら懸命にツッコミを繰り返していた。 「陽菜……!」 陸弥は空中に投げ出されている陽菜の腕を掴むと、力強く引き寄せて胸の中に掻き抱く。す、と横に黒い影が近寄ってきて、陸弥と目を合わせた。 「陽菜ちゃんは大丈夫?」 「ショックで意識が飛んでいる……晃太郎は空中で移動出来るのか?」 「職業が忍者だから多少はね。てか、いくら無事が保証されてるとしても、向こうの変人集団はともかく、普通の女の子の陽菜ちゃんをいきなり突き落とすとは暴虐な真似してくれるよ」 晃太郎は、ちら、と崖のてっぺんを見上げた。もう影も見えなくなってしまったが、おそらくあの声の主は城の中にいるのだろう。晃太郎は深く眉を潜めた。 「ラスボスだろうけど……キツイ灸を据えないとな。陽菜ちゃんは頼んだよ」 「ああ」 「……まあまともそうな奴はいるし、何とかなるかさせるか……」 晃太郎は息を吐くと、次いで椿と壱へと目を向けた。決意を固めて目を瞑る。おそらく、今から暗転を兼ねてどこかに飛ばされるのだろうとぼんやり思いながら、晃太郎は自分の体が海に叩きつけられるのを待った。 そして案の定――衝撃はいつまでもやって来ず、8人の体はいつの間にか、白い砂浜へと横たわっていたのだった。 baton pass! back |