ぎゃーぎゃー騒ぐから、口付けてやったことがあった。その一瞬は静かになったけど口を離した途端また騒ぎして、もしかしたらする前よりもうるさいんじゃ、ってくらいになった。人前でとか突然するなとか、ガミガミ飛んでくる怒声をはははと流したけれど向こうさんは真っ赤になって怒っている。それも可愛いんだけど、そうじゃないんだよなぁ。オレが何を考えているか知らないなまえは「話聞いてんの?」と眉を釣り上げている。ゴメン、あんまり聞いてないな。


そもそもこんなことをしたのには理由があって。部室にたむろってる時に「そういやさァ」と靖友が日誌を書く寿一の背中を見守りながら口にしたのがきっかけだった。お前のカノジョ、とオレの方を指差して、それで示される女子は当たり前だけど一人だけだ。「なまえ?」「そう、アイツ」靖友がなまえに興味を持つなんて珍しいと思ったし、尽八も「ついにお前も彼女が欲しくなったか?!」と煽ったがそうでもないらしい。言いたかったことは立った四文字。「ウルセェ」だった。靖友となまえは同じクラスだったのだ。あまり接点のない二人だしなまえもオレ以外の男は得意じゃないから話したりはしないらしいけど、姿を見かけることはクラスの違う尽八や寿一よりは多いんだと思う。なまえは元から、声の大きいタイプだった。それで、よく話す。尽八とは違う種類でだが、うるさいとはよく言われていた。尽八は内容もうるさい。だからなまえがウルセェと言われた時はそうだな、としか言えなかったしというかなぜ今更と思ったのだ。なまえがうるさいのはオレの周りでは結構当たり前の認識で、あの騒がしい声が聞こえてくると「ああアイツか」となるくらいなのに。

「めんどくせェから、いざという時の黙らせ方とか考えてくれナァイ?カレシクン」

それで、こうなった。キャンキャン吠えて、ウルセェと怒鳴っても「うるさくない」と余計に大きな声で言い返すだけなのに困った靖友の相談だったというわけだ。オレからすればそこも可愛いんだけど、彼女でもない女子が騒いでるのはまたちょっと感じが違うのかな。それとも靖友は本人うるさいのに、意外とおとなしい子がタイプだったりして?でもわがままな子が好きって言ってたし…。思考を巡らせていると、黙り込んだオレを不審に思ったなまえがにゅっと身を乗り出して顔を覗き込んでくる。キスしたばかりの唇は少し濡れて光っていた。あー、もっかいしたいかも。でもまたしたら怒られそうだなあ。『キスして黙らせる』って、悠人の読んでた少女漫画に載ってたからためしてみたけど効果ゼロだ。というかこれ、本当は靖友が黙らせる方法を調べなくちゃいけないんだよな?そしたら、キスなんてダメだ。いくら靖友でもなまえにキスなんて考えられないし、いざとなったら直線鬼の出番かも、なんちゃってな。

「ね、ねえ、どうしたの?わたし何かした?」
「んー?」

オレがずっと黙っているから、怒ったとでも思ってるんだろうか。さっきまでぴんと釣りあがっていた眉はその影もなくしょぼんと垂れ下がっている。こういう表情の変化も好きなんだよな。大袈裟なとこ、騒がしいとこ。「なまえのこと好きだなって思っただけだよ」「な、なにそれ?意味わからない…」そう思ったのはついさっきでずっと黙ってた理由にはならないけど、間違ってはないからいいだろ?肩から抱き寄せてぎゅっと腕を回したところで気づく。あ、なんか静かだ。後ろから見える耳はほんのり色付いていて、照れてんなってすぐに分かる。可愛いとこあるじゃねえか。腕の力を強めると、真ん中でなまえが身動ぎした。

「なまえ」
「な、んですか?」
「好き」

きゅうんと縮こまって、今度こそもう何も言わなくなってしまった。なるほど、こうすればいいのか。でもこれ、やっぱりオレにしか使えないな。靖友はダメだ。

「………いや、オレがずっと一緒にいればいいのか」

それはそれで、人前でイチャつくなって怒られそうだけど。


140906

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