先に注意書きをお読みください




「ただいまー」
「あっおかえり!」

アルバイトが終わり、一人暮らしのアパートへ帰ってドアを開けると、その音に気づいたらしい足音がぱたぱたとこちらへ向かってくる。
私が靴を揃えている間に後ろから飛びかかられ、ぐん、と姿勢が一気に前のめりになった。床に手を付くことで姿勢を持ち直すが、さすがに勢い良く約60kgの重みに飛びかかって来られてはなかなか応えるものがある。
首を動かすとまずぴょこんと跳ねた一房の毛が目に入り、その次にぱっちりと大きな瞳。それをきゅっと細めて私の首に巻きつかせた腕に込める力を強めた山岳の頭を、2,3回なでた。

「オレイイコにして待ってましたよ、床も汚してないし、何も破いてない!」
「とか言って、前は部屋をティッシュまみれにしてたよね」
「あれはつい…でも今日は大丈夫なんです、大人しく待ってました!」
「ほんとに?」
「ほんとに!」

尻尾を振る山岳を一旦どけさせて、リビングへと向かう。それについてくる足音と共にドアを開けると、出発前と変わらぬ部屋が私を待っていた。
なるほど、山岳が言っていたことは本当らしい。
おお、とつい声を上げると、するりと私の腕に自らの腕を絡ませ、頭を私の首筋に摺り寄せ、すんすんと匂いを嗅ぐ。
「あぶらのにおい」と呟く山岳の頭を撫でながら「バイトだったから」と答えると、山岳は気に入らなさそうに唇を尖らせ、私から離れリビングの真ん中のソファにぼすんと座った。

「ねえなまえさん、オレイイコにしてたよね?」
「うんうんしてた、山岳は偉いね」
「じゃーさ、ご褒美ちょうだい?」
「えー…いいけど、でもいまあんまりいいおやつおうちにないよ?」
「いいよ、オレ…」

こっちきて、と手招きされたのに従い、山岳のとなりに腰を下ろす。
肩に手を添えられたかと思えば山岳はぐっと身を乗り出してきて、勢いのままに倒され、ソファの淵の手すりをまくらにするように、私は二人がけの少々狭いソファに倒れこんだ。
完全に私の上に乗っかった山岳が私の首筋に顔を寄せると、ちゅ、と唇を押し当て、そのあとぺろりとそこを舐め上げる。
ざらりとした舌の感覚に驚いて声をあげると、山岳は嬉しそうに笑ってまた一舐めした。
時々ちゅ、ちゅとキスするように唇をあて、ぺろぺろと小さな舌で顔や首元を舐める山岳を退けようとしたがくすぐったさに力が入らず、おまけに太ももの間に片足を入れられてしまっているので起き上がれない。
山岳は甘えん坊で、普段から私にくっつきたがるところがある。散歩中も好きなところに行っていいよと言っても私の隣から離れないし、公園で他の子たちと遊ばないのかと聞いても「なまえさんと遊びたい」と可愛いことを答えるのだ。
懐かれるのは嬉しいけれど、山岳にもお友達ができて欲しいなあ、と思うのも事実。
だけど、もしお友達ができて私にすりすりしてくれなくなったら、それはそれでさみしいのかもなぁ…。

「山岳」
「ん、なに?」
「………んーん、なんでもなーい」

くしゃ、と癖のある毛を掴むようにしてかき混ぜると、くすぐったいと笑った山岳が身を捩らせた。
仕返しとばかりに唇を舐められ、山岳がにやりと笑う。あ、これは。山岳のいたずらスイッチが入ってしまったと気付いた時にはもう遅く、私は夕飯の時間まで全身舐め倒されたのであった。



140902

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