衣服を取り替えて滴る血液とはおさらばしたはずなのに、まだ鼻にはあの生臭い臭いがツンと残っていた。シャツの裾にまで紅色が散っている。コートだけではなかったようだ。だが今はそれを取り替える手間でさえ惜しかった。深夜の廊下を出来るだけブーツの音を鳴らさないように心がけて歩く。鍵がされていない無防備な部屋にノックさえせずに立ち入った。時計の秒針の音とすやすやと規則的な寝息だけが静寂の中でぼんやり浮き上がっている。上下する胸にはシーツがかかっておらず、それは足元に丸くまとまっていた。また蹴ってしまったらしい。少し捲れたパジャマの上着から白い腹部が露わになっている。好奇心のままにそれをゆっくりと捲りあげると、何にも包まれていない慎ましい胸元が露わになった。いくら自分の部屋で寝ているとはいえ、下着すらつけないのか。薄いパジャマだけでは形が浮いてしまうんじゃないかと心配になる。次に目覚めた時に言ってやろうと決めて、欲に晒されたことのないような真っ白な身体をシーツで隠してやった。僕のような真っ黒な世界とは正反対の日に当たる輝いた日々を過ごしてきた彼女がどうしてこんな裏社会に身を投じているのかといえば沢田綱吉あの男のせいとしか言えない。彼に関わらなければもっとマトモに暮らせたのに。今頃普通の男と結婚して幸せに暮らしていたかもしれないのに。残念でしたね。付き合ってすらいない男に胸を見られて、それすら気づかない彼女はどこまでも無垢で無知で残酷だ。きっとこのままこの世界にある惨いことの半分も知らずに死んでいくのだろう。そうだ、それがいい。それでいいのだ。影の落ちた世界にいても、彼女にだけは日の当たる場所を歩いて欲しい。そのためにこうしてわざわざ深夜に任務でもないのに外を出歩いていたのですよ、僕は。



今日は三人殺しました。貴女を狙ってボンゴレの弱みを引き出そうとするつもりだったようですよ。本当に愚かですね。彼らも貴女も僕も。


20140831

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