7.
「やあ黒田くん」
「…っす」

食堂に来た黒田くんは一人だった。泉田くんとあの背の高い男の子はどこを見ても見当たらない。
じゃあいこうかと券売機に並び、何を食べたいか尋ねたところメニュー表を見てからうどんと言った。
うどんが280円で食堂のメインメニューの中で一番安いことを私は知っている。
420円の唐揚げ丼とかどうよと提案したら濁されてしまい、やはり素直におごられる気はないらしい。
仕方ないので折れない黒田くんにうどん、自分用にラーメンを買い、こっそり唐揚げ単品を買った。
受け取り口に並んですぐに出てきたそれをお盆ごと持とうとすると奪うように持ち上がり、黒田くんは二つ空いた席に歩いて行った。

「…食わないんですか?」
「いや、食べる」

黒田くんの隣に走ると椅子を引かれて、素直に座らせられてしまった。
黒田くんは思っていた以上に、紳士的な男だった。
この状況では本当は友達を別の席に待たせていて、黒田くんにご馳走したらそちらへ移動しようと思っていたなんて言えそうにない。
だって、黒田くんは泉田くんとあの背の高い男の子とくると思っていたし、あまり親しくない女子の先輩と昼食なんて息が詰まるかと思ったからだ。これは私が黒田くんと昼食をとりたくないとかでは断じてないので、わかって欲しい。
お盆に乗せられていた割り箸も渡され、いただきますと手を合わせる黒田くんと同じようにしてラーメンをすする。
思い出したようにアクエリと炭酸飲料を机に並べると、うどんが口から出たまま顔を見合わせた。

「またですか」
「いらない?」
「流石に悪いですよ」
「もらっておけよ」

ん?私でも黒田くんでもない声が上から降ってくる。
二人一緒に見上げると、やあと人のいい笑みが厚い唇に浮かんだ新開くんがいた。
手には大盛りのカツ丼が乗ったお盆があり、目的は私たちと同じらしい。
新開くんがいるならと周りを見渡したが、他の自転車部の面々は見当たらない。
一人で食べに来たのか?と思ったら、遠くに女の子を待たせているようだった。新開くんに彼女がいたなんて驚きだ。みんなが知ったらちょっとしたニュースになるだろう。
新開くんの説得の甲斐あって、というか黒田くんも同じ部活の先輩に言われては引けないのだろう、2本のペットボトルを受け取ってもらうことになり、ひとまず目的は達成された。
納得いかなさげな黒田くんは再びうどんに手を付ける。新開くんは私たちが座っているテーブルから少し離れた、彼女であろう女子の隣の席に座った。
さっき買った唐揚げを箸でつまんで一つ食べる。出来たての唐揚げが美味いのは言うまでもないことだ。
唐揚げの入った紙コップを黒田くんに差し出すと、これまた遠慮がちにお箸をぶっ刺した。
遠慮しているくせに勢いよく刺さったお箸が面白くてつい笑うと、不服そうに睨んでくるのがまた面白い。
親しくない、同期でもない、しかも異性なのに私たちの食事には思ったほど気まずさというものがなかったように思う。
そう思っているのはきっと、私だけじゃない。


140213






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