5.
体育祭をするのだから球技大会なんていらないのでは、とは帰宅部代表インドア派女子みょうじなまえ私個人の意見である。
本日の午後、三年生全クラス合同の球技大会が執り行われることとなった。
天気はよく、女子サッカー部エース松本さんは最高のサッカー日和ねと爽やかに今日も輝いているが、私はなぜこんな眩しい日に外で走り回らなければならないのかとしか思えない。
優勝するぞなんて盛り上がっているクラスメイトの士気を下げることはしたくないのでほどほどに頑張るつもりではいるが、気乗りしないのも事実。
昼休みのうちに着替えなければならないので早いうちに体操服を取りに行こうとした時に気付いてしまったのは幸いと言うべきだったのだろうか。
紺色のハーフパンツが入っているから油断していたのかもしれない。
1200円のキャラクターもののトートバッグに苗字刺繍と、HAKONEGAKUENロゴ入りの白いTシャツが入っていないことに気づいた私は冷や汗をかいていた。
まずい、ない。体育の授業なら他のクラスに借りればいいが球技大会となるとそうもいかない。
長袖のジャージを借りようかと思ったが体育の先生はTシャツ未着用でのジャージ着用に厳しかった。
かくなる上は後輩だが帰宅部に上下関係など存在せず、私に頼めるような仲の後輩はいない。
運動部の友達の後輩に頼みこもうかとおもったが申し訳なくてできなかった。チキンなのである。
最悪の場合ジャージを貸してくれと友人に頼み込み、やってきたのは二年生の教室の並ぶ階だ。
ガヤガヤとうるさいそこに立つ足元のカラーは私とは違う。
浮いているのは明らかだった。この中で優しそうな女の子を見つけてお願いしますTシャツを貸していただけませんか、と言えたらいいのだがそれは私には難易度が高かった。
レベル1のコラッタでレベル70のミュウツーに挑むようなものである。
ココドラだったら話は違ったかもしれないが、私はその分野においては雑魚中の雑魚だった。
唸りながら経っていても時間は過ぎるもので、窓から見たグラウンドにはちらほら着替えた生徒が出てきている。あと10分もしないうちに着替えなければマズイ。
気の弱そうなメガネの女の子、あの子にしようかな。でもイジメだと思われたらどうしよう。
意外と怖い子かもしれないし、普通に知らない先輩に体操服貸すなんて嫌だよな。どうしよう。

「みょうじさん?」

みょうじさんは困り切っているよ、後輩諸君。
ん?私を呼ぶ後輩なんていただろうか。いや、いたじゃないか、一人。
それを見るのは五回目となる銀髪。
隣にはあの背の高い男の子と坊主の男の子が控えている。
そんなに挙動不審だったのか、声をかけてきたのはそっちだというのに黒田くんは驚いていた。
そうだ、黒田くんがいた。この際性別はどうでもいい。どうせ、ロゴの色が違う時点で何か言われるんだ。
まともに話すのは二回目となる後輩に頭を下げるのは後にも先にもこれが初めてだった。
ぽかんとしたまま了承してくれた黒田くんから私のよりも大きいTシャツを受け取り、感謝のあまり手を握っりブンブン振った。シェイクハンズ。
あまり時間がないのでお礼は後ほど、と自分の教室へ走り去りすぐにブラウスを脱いで着替えた。
ドアが開いていたけれど気にしている暇はなく、正直下にキャミソールを着ていたし見られて困ることもなく、誰かを誘惑できるような身体もしていない。
友達の「誰よ黒田って」と疑うような目線を掻い潜りグラウンドに出た。
体育の先生には話しかけられたが怒声ではなく「みょうじと黒田って親しかったんだ」というものだった。
どうやら黒田くんは運動神経がいいため体育教師の間では人気者らしい。授業でお手本をさせられるタイプのようだ。
そんな黒田くん効果もあったからか、試合ではなぜか1点ゴールを決めてしまった。
すごいぞ黒田くん。これはお礼を弾んじゃおうかな。
大きいTシャツの端を掴みながら、男子高校生がもらって嬉しいものってなんだろうと考えた。






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