4.
王者箱根学園、というのは自転車競技界では有名な名前らしい。
王者と名のつくだけあってとんでもなく強いうちの部は、当然とんでもなく大会出場選手の入賞が多い。
本日ロングホームルームを利用して行われた表彰式で、壇上に上がっている生徒のほとんどが自転車競技部であるということは言うまでもないことだった。女子よりも男子の数が多いのはそういうわけである。
自転車の大会はよく知らないが学校を介さない個人出場もあるらしく、それもひとつひとつ表彰するためにひどく時間がかかる。恐らくこの時間の半分以上が自転車部に費やされている。
関係のない人間からしたら手早くやってくれと思うけれど、自転車競技部にはこれが大きな誇りとなっている、らしい。というのは聞いた話なので私にはよくわからない。
実際のところ、自転車競技部についてはあまり詳しくないのだ。
1年生の後半から2年生の終わりまで選手に熱を上げていたけれど、あとから考えてみると知らないことばかりで、知識でも養えばあの時間にも意味はあったのかもしれないなと今になって少し後悔する。
自転車競技部の表彰が始まると体育館が静かになった。いろいろありまして、今回は私も表彰される側になっているので壇上でその様子を見ることになる。
校長のマイク台には薄黄色の同じような紙が積み重なっていて、ふと黒田くんにもらったコーンポタージュの缶を思い出したのはお腹が空いていたからだろうか。
そういえば黒田くんは、と少し頭を出して自転車競技部の列を眺めると、許容数オーバーなんじゃないかと思うような人の群れに埋もれるようにしてその銀髪はあった。
あの日自転車競技部の長袖のジャージを着ていたから気づいてはいたけれど、やっぱり自転車競技部だった。
しかも表彰されている。結構凄いんだな、ただのコーンポタージュをくれる優しい少年というわけではなさそうだ。
黒田くんの番が回ってきて、彼はなんとかヒルクライムとかいう大会で優勝し素晴らしい成績を納めたことをここに表彰しますと校長先生にコーンポタージュ色の紙を受け取っていた。
礼がやけに手慣れていることから、こういった場面は慣れっこなのだろう。過去にも表彰されたことがあったのだろうか。
今回は私も上がっているので見てはいるけれど、普段のこの時間はしっかり爆睡しているので黒田くんが表彰経験者なのかどうかは知る由もない。
そうこう考えているうちに長かった自転車部の表彰が終わり、吹奏楽部、バトン部、続いて美術部の表彰へと移った。
私の出番である。私が並んでいるのは美術部の列だが、私は美術部所属ではなく、前に言った通りの帰宅部で、絵に関する知識はあまりない。
だけどなんの手違いが起きたのか、授業で描かされたポスターがなんとかコンテストの優秀賞をいただいたらしいのだ。
えらくテンションの上がった美術の先生に言われた時はそうなんですか、としか言えなかったが、のちに美術部の友達にその凄さを語られようやく自分が何をしたのかを知った。
一年に一度ある全国規模のコンテストの優秀賞、つまりは2位らしく、何万という応募の中で2番目に選ばれたという作品は都内の美術館で展示されるそうで、先生や友達に見に行こうと誘われている。が、あまり気乗りはしない。
校長先生が似たような文章を読み上げ私にコーンポタージュ色の紙を手渡した。お辞儀はきっと黒田くんと違ってぎこちない。
待機の列に戻り黒田くんを見ると、彼もまた私を見ていたらしく目があって小さく会釈されたので、忘れられてはいないらしい。改めて見ると自転車競技部、多いな。
端の方でもう何度も見惚れた笑みを浮かべている彼を見なかったことにして、早くこの時間が終わらないかなと繰り返し念じた。

140206






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