冬生まれだから雪成なの?と聞いたことがある。
その時は「いや、聞いたことないですけど、そうなんですかね」と言われ会話は続くことなく終わったが、実際どうなんだろう。二月四日零時十五分、天気はーー曇り。

「寒い」
「そうですね」
「暗いし。寒いし。眠いし」
「すいません」
「……いや、いいんだけど」

そもそも私に、誕生日を初めて祝う年下彼氏へのベストなサプライズプレゼントが浮かぶ脳みそがあればこんなことにはなっていなかったのだから。一ヶ月前から悩みに悩み、福富くんや新開くんにまで相談したというのに、いい案は浮かばなかった。好きな食べ物とか、洋服の趣味とかなんとなくは知っているのに決め手がない。そもそも恋人から貰って嬉しいものって何?なまえから貰えればなんでも喜ぶと思うなんてフワフワした友人の意見も信用ならないし、まあその、最終的には本人を頼らざるを得なくなったのだ。それが三日前。

「じゃあ誕生日、一番最初に祝ってください」



そんなこんなで、うちの近くの公園にいる。深夜に若い男女が二人、警察にでも見つかれば補導モンだ。寒い寒いと言う私の右手を、車道側をずっと歩いていた雪成が繋いでいる。チカチカと心許なく光る街灯と自動販売機の明かりが黄色く公園の土を照らしていて、時間の割には明るかった。不審者でもいるんじゃないかという僅かな不安を裏切るように公園は静寂を保っており、よく考えれば当たり前だったのだ。こんな寒い日の深夜の公園に来ることなんて用事がない限りない。

「なんか飲みます?」
「うーん」

マフラーに埋めた顔をできるだけ外気に触れさせないようにしながら光る自動販売機を見上げる。隣のユキはもう決めたのか、小銭を投入してボタンを押す。音を立て僅かに機体を揺らしながら出てきた飲み物を取るために屈むと、一瞬、手が離れた。ずっと体温に触れていた手のひらの間を冬風が過ぎていく。冷たい。

「………『よかったら』」

セリフじみた口調、今度は立ち去ることもなく、照れもなく、左手はコーラではなく再び私の手を取った。はっと見上げたその顔には、なんというか、いかにも、幸せですみたいな表情が浮かんでいる。そうだ、1年前。ちょうどこれくらいの時期だった。ああ、もう1年経つのか。ずっと好きだった人に失恋して、ユキに出会って。冷えた頬にスチール缶を当てると、体温が戻った気がした。

「ゆ、ユキ……」
「本当はもうちょっと先ですけど、これから忙しくなると思うので、今のうちに言っておこうと思って」

繋いだ手が強く引き寄せられ、逆の腕が腰に回され抱かれる。1年前は、ただの名前の知らない親切な後輩だった。変な意地で無理矢理お礼を押し付けていなければ、こんな風に二人でいることもなかったのかもしれない。こうしてキスすることなんて、なかったのかもしれない。
ただの好きだった人の後輩、で終わったのかもしれない。だけど、それだけでは終わらなかった。

「なまえさん、オレのことを好きになってくれて、ありがとうございます」
「…ユキの誕生日なのに、私、何もしてないんだけど」
「本当はいろいろお願いしようかと思ったんですけど」
「けど?」

もう一度抱き寄せられ、口づけられる。自販機の反対側に伸びた影が二つ、唇と同じくくっついている。気温は変わっていないはずなのに、温かいコーンポタージュ缶のせいか、触れ合った体のせいか、繋がれた右手のせいか、それともこのキスのせいなのか。不思議と寒いと感じなくなっていて、体の奥から火照るようだった。

「これで十分です」






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