26.

「どうですか?」
「んー……気持ちいい」

ゆるい温風に当てられながら、暖かさと人に髪を触られる心地よさに瞳を閉じる。気を抜けばすぐに眠りについてしまいそうだ。
うとうとしそうになればユキに肩を叩かれ、はっとして意識を戻す。これが数回。
ある程度乾いた髪をタオルで包み、わしゃわしゃと残った水気をとっていく。それもまた気持ち良くて、微睡みへ落ちていく感覚、背中にあるユキの体温に安心してしまって、完全に身体を預けていた。

それを一気に覚醒へ持っていったのは斜め後ろからの口付けで。

「んっ…」
「っ……は、なまえ、さん」

生乾きの髪がユキの頬にぴたりとついていて、背後から上半身を拗らせ抱きしめられているのだと気がついた。
無理やり横を向かされて深いキスをされて、眠気が一気に吹っ飛ぶ。唇を離すたびに名前を呼ぶ声は切なく、私の胸を震わせる。
だんだんかかってきた体重が私の身体を床に寝かせ、気がつけばフローリングに押し倒されていた。
それでも降り続けるキスが止むことはなく、私の腰やら肩やらをつかんでいたはずのユキの手は私の手首を掴み、フローリングに押し付けている。
口付けに夢中になったユキが無意識なのかわざとなのか、私の太ももにユキの床に立てた膝を擦りつけている。
漸く長く離された唇はお互いの唾液やらなんやらでまみれていて、息苦しさからか切なさからかいつの間にか滲んでいた涙が頬を濡らしていた。

「はぁっ…はぁ……なまえさん……オレ…」
「ゆ、ユキ…」

ギラギラとした、全部の欲が剥き出しになったような瞳にあてられて、ぞくぞくと身体の中心が悲鳴を上げる。
手首から離れた右手が宙を彷徨って、2、3度の躊躇の末に私のパジャマの裾を掴み………

「待って!」
「?!」

掴み、かけた手を解放された左手で掴みあげた。
まさかこのタイミングで制止をかけられるとユキも思っていなかったのだろう、驚き見開かれた目には「オレなんかした?」とか、「間違えた?」とか、「まだ早かった?」とか、その他諸々、初めての行為への不安やら焦りが浮かんでいた。
捻り出した声は思ったより弱々しく、それはユキの情欲を強く煽るものだったらしい。
「ベッドで」の声を聞いたユキがふたつ瞬きをすると、起き上がろうとした私を無理矢理掬いあげ、背中と膝の下に回った逞しい腕が身体を持ち上げた。
場所なんて教えてないのに、「こっちですよね」ととんとんと階段を上がって行く。
ああこれが大人の階段、と現実逃避をしていると揺れが小さくなり、ついに登り切ってしまったことを悟った。キョロキョロ周りを見回して、私のネームプレートを見つけたユキが私の背中を支えていた手でドアノブを捻る。
一時的に腕だけで支えた背中を抱きかかえ直し、私の身体をすぐ近くのベッドに横たえた。

「ゆ、ユキ?」
「風呂入りました、髪乾かしました、ベッド連れてきました」
「うん?」
「……まだなんか、足りないのありますか」

さっきと同じように押し倒された体制、違うのはユキの腕が手首ではなくシーツに突かれていることだ。
もう止まれませんから、そんな顔をしたユキの問いに、なにもないと首を振ればすぐにその大きな手は私の身体を暴くのだろう。
避妊具はすぐ隣の戸棚に入っている、ユキが来る前に散々恥ずかしい気持ちに包まれながら準備したのだ。
“待て”と言われた犬のように動かないユキの頭を抱き寄せるようにして、後頭部に手を回した。少し驚いたユキが目を細め、唇に触れるだけのキスを落としてからパジャマの裾に手をかけた。







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