1. 「…大丈夫ですか?」 遠慮がちにかけられた声。顔を抑えた手を離し、そちらを見ると背の高い、明るい髪色の男子が立っていた。 服装からして自転車部だということは明らかだ。その服装は今一番見たくないものなのに。 目頭が熱くなるのを感じてまた手を目に当てた。 敬語だから後輩なのだろうか。三年生の自由登校期間に入った今、先輩ではなさそうである。 「自販機、いいですか」 気まずそうに言われて気づいたが、私がもたれかかっているものは自動販売機だった。 炭酸飲料、スポーツドリンク、お茶、コーヒー、コーンポタージュ。 練習の合間にスポーツドリンクを買いに来たのだろうか。だとしたら申し訳ないことをしてしまった。 震えた声しかでないことは分かり切っていたので、会釈だけして自販機の影に隠れた。 スポーツドリンクって自分で買わなきゃいけないのだろうか。こういうのってマネージャーとかが用意してくれるものじゃ? 疑問からすこし手に隙間を作り覗くと、彼の手にはスポーツドリンクではなく、黒い液体。言わずと知れたコーラである。 何でスポーツの合間にコーラだよ。思わず突っ込みたくなってしまったけれど、知らない人に話しかける度胸はない。 私が見ていることに気づいたのか、少年と目があった。 すぐさま逸らしてしまったけれど、それは気まずさからだけではない。 あの、と、先ほどに続いて話しかけてくる彼はなかなかの勇者であるらしい。 赤みの残る目を見られるのは恥ずかしかったけれど目を合わせると、差し出されたのは薄黄色のスチール缶だった。 寒い冬のお友達、あったか〜いのコーンポタージュだ。 よかったら、と押し付けるように渡されて、彼は足早に去って行った。 返す暇もなく、名前を聞く暇もなく。そこに立たされたままになった私はどうするのが正しかったのだろう。 冷えた頬にそれを当てると、体温が戻った気がした。 プルタブを上げて喉に流し込むとお腹から温まる。寒い冬のお友達は失恋の痛みも癒してくれるらしい。 140130 ←→ |