18.
恋に落ちるのなんて、3秒あればことたりる。これは、自己の体験に基づく持論だ。
落とした教科書を拾ってもらったくらいで恋に落ちるようなタイプの私だが、熱しやすく冷めにくいため長期に渡り一人の男性を追いかける傾向がある。
ユキについては追いかける暇がなかったけれど、それはこれからおいおいということにしておいて欲しい。
さて、テストも無事に終わり、月も変わり、文化祭の準備が始まった。
我がクラスは高校生活最後の文化祭ということで張り切りムードに包まれており、現在受験生の(これはみんな同じだが)私も勉強の暇にそれに引っ張られている状態で、たこ焼きをするといううちのクラスは看板作りに追われている。
ユキはユキで部活の合間に実行委員の女子に引っ張られ手伝わされているらしく、最近は家に帰ると普段の倍くらい疲れを感じるそうだ。
お互いゆっくり会えるような暇はあまりなく、実を言うとあの勉強会以来ユキとは一度も会っていなかった。
テスト週間も含めると二週間ほどだろうか。二日に一度はメールをするようになりメールの頻度は上がったが、それでも物足りなさを感じているのは事実である。
ここ最近ではベッドに入り眠る前に、ユキとメールのやり取りをしながらデータフォルダ内の写真を眺めてしまうようになっていて、重症だな、と我ながら笑ってしまった。

「ねね、なまえて当日店番してもらっても大丈夫?シフト調節してるんだけど、一時間合わなくてさ。お願いしたいんだけど」

文化祭の店番担当の子に頼み込まれ、勿論頷いた。
文化祭はユキと回ることになるのだろうか、まだ当日の話はしていないが、もし二人で回ることになっても一時間くらいなら大丈夫だろう。
それより今はたこ焼きの横に腕を伸ばすタコに赤色を塗っていくだけの簡単なお仕事の方が大事である。
本格的に下校時刻きりぎりまで居残る予定の子はきちんと汚れてもいいようなジャージに着替えていて、学年カラーのジャージの裾には既に赤や黒が散りばめられてしまっている。
私は申し訳程度にスカートを脱ぎ、ジャージを履いているものの、上のセーラーブラウスはそのままにしていた。
赤がついたら洗濯が面倒だな、と考え事をしているとこうなってしまうのだ。一筋飛んだペンキが跳ね上げ、あと10cmも下に飛べばジャージだったのに、器用なことにブラウスについてしまった。
共同で作業していた子に声をかけて固まる前に洗ってくると教室を出ると、どこのクラスもペンキやベニヤ板を囲み忙しなく働いている。
ペンキを落とすためにペンキ使用可能な指定された水道までいき、裾のボタンを2つほど外して水にさらすと、乾く前だったからか案外すぐに色は薄まった。
指の腹でこすれば目立たないほどになり、これくらいなら大丈夫だろうかと蛇口を捻る。ハンカチで水気を取ってからボタンをかけて、ふと何気なく水道の上にある校門前がよくみえる窓に目をやった。

(あ…)

すぐに気づいたのは、盲目だったから。
緩んだ口は一瞬にして引き締まり、きゅっと結ばれ、無自覚に唇を噛んだ。
校門前に目立つ明るい頭があることには、窓の外を覗いて数秒で気付いた。
ここまではよかったのだが、その後に気づいてしまったのはユキの隣に並ぶ、後輩と思われる女の子の姿だ。
二階から見てもわかるほどに楽しげな二人の様子に、気持ちがどんよりと曇りを見せる。
“文化祭の道具の買い出しに出た女の子に、一人だから大変だろうからとユキが着いて行っている”というシチュエーションなのだろうか、それはよくあることで、自分のクラスでも同じようなことは何度もあった。
だけど、実際自分の恋人がとなると感じ方は変わってくるものだ。
同級生だから話も合うし気が楽なのかもしれない。1年の大きさを感じることは、ユキと付き合っていて何度もあった。
校門を出て二人の姿が見えなくなってからようやく窓の外から視線を外した。
時間がなく、クラス全体が切羽詰まっているので、あまり教室を離れているわけにはいかない。
すぐに駆け足で教室へ戻り、何事もなかったかのように作業に戻る。重いものを抱えながら。


140322






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