14.
夏休みも半分を終えた。
高校三年生の夏休みなどあってないようなもので、週の半分を夏期講習のため学校で過ごしている。
お互い忙しい身のため、時々時間を合わせて昼食をとるくらいでしか会う機会がなくて、それでも学校があった頃に比べたら多くなった方だ。

「なまえさん、26日…暇?」
「26?」

夏休みが31日までというのは中学校までの話で、他の高校は知らないが箱根学園の始業式は8月27日だった。
つまりは最終日、その日は日曜日で夏期講習もない。
三年生は講習がある分課題が無いに等しいので、ギリギリに追い詰められてすることもなく、つまりはフリーだった。

「予定はないよ」
「じゃあ…花火とか行きません?」

ユキの地元で、そこそこ大きな花火大会があるらしい。
近所に神社もあり、屋台も出る。花火大会にしては遅い時期だが、たくさんの人が集まるそうだ。
人混みが嫌いでなければと付け加えられたそれを断る理由なんて私には存在せず、二つ返事で了承した。
確か浴衣があったはずだ。着ていってやろうかな、どんな反応をするだろう。
ケータイのカレンダーにハートマークをつけて待ち合わせ場所や時間を決めた。その日もまた午前練習らしく、会うのは5時からとなった。
楽しみな予定が一つ増えた。これは気合を入れなくてはならない。
夏期講習午後の部で普段より頭が冴えたのは気のせいじゃないはずで、ペンは手の上でよく回った。


来たる26日。
母に着付けられ、髪を整えられ、慣れない下駄に四苦八苦しながらも待ち合わせ場所に向かった。
予想以上に徒歩に時間がかかってしまったせいで、待ち合わせ場所にはすでにユキの姿がある。
ごめん待った?今来たとこなんで、なんてベタな会話をしてしまってにやけている。わかってやっているのだろうか。
全身をくまなく見られているのが恥ずかしい。化粧だっていつもより濃いから。

「すげー綺麗。写真撮ってもいいですか?」
「えっ?!」

ユキのことだからそう言ってくれるのは何と無く予感していたが、写真は想定外だった。
出されたケータイのカメラから逃げるように手で顔を隠すと不満げな声で名前を呼ばれる。
仕方なく口に手を当てることで許してもらい、撮影会が始まった。感じる視線はユキだけのじゃないはずだ。
満足したのか、ケータイを閉じたユキのTシャツを引いて距離を近づけ、自分のケータイを裏返してボタンを押す。
シャッター音。インカメラよりも外のカメラの方が画質がいいのは常識だ。
ユキは自分が撮られることは考えていなかったらしく何やらブツブツ言っていたが、おとなしく撮られてやったのでそれのお礼ということで。
写真をメールに添付して送ると満更でもない顔をしている。
こっそり待ち受け画像に設定してから、神社へと手を繋いで歩き出す。
周りは私たちと同じカップルばかりで、皆同じように幸せそうに笑っていて、自分たちも周りからはこう見えているのかと思うとむずかゆくなった。

「人多いね」
「はぐれないでくださいよ」
「ユキが手離さなかったら大丈夫」

離すわけない。むしろ私が離してやらない。
まだ明るい空に特設された提灯が赤く浮かんでいる。
花火まではまだ時間があるということで、出店で腹ごしらえをすることとなった。
たこ焼き、フランクフルト、クレープ、焼きそば、イカ焼きと並んでいる。どれも定番で、きっと別の場所にも同じ様な店が出ているのだろう。
普段なら絶対300円で買わないフランクフルトも買ってしまうのは祭効果というやつか。

「ケチャップついてますよ」
「え、どこどこ」
「…ここ」

指先が唇を掠める。私よりも赤くなっているのがユキらしい。
バカップルみたいだなと思っていたら、目の前のカップルが同じ様な会話ののち、彼氏が彼女の唇を舐めとった。
「もお、まーくん人が見てるよ?」「いいんだよ」なんてよくやるものだ。見てるこっちが恥ずかしい。
流石にこれを人前でされるのは。やりましょうか、と言われたが丁重にお断りした。

「人前じゃなきゃいいんですか?」
「そういうことではない」

ニヤッと笑ったユキに、してやられた気分だった。


140305






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