13.
ユキと電話していた、ある夜のこと。

「あ」
「?」
「充電器イった…」

ゴムが禿げていた充電器の中のコードがぶちりと切れてしまっている。雑な扱いだったが、こんなに早く切れてしまうとは。
ビニールテープで応急処置を施しておけばこうはならなかったのかもしれない。
ケータイの充電は70%で、明日までくらいなら持つだろうが、そのあとはどうするかだ。
幸い明日は予定がない。ケータイも少し前に出た機種なので、充電器は少し足を伸ばして電器屋さんにでも行けば売っているだろう。
買いにいかなきゃ。独り言のような呟きには無自覚に期待が混ざっていたのかもしれない。
すぐさま「一緒に行きますか」と返してきたユキの彼氏力は平均値をゆうに超えていると私は思う。ところで彼氏力ってなんだ。

こんな形ではあるが、父の実家から帰ってきたときを除けば初デートとなる本日。
午前中は練習があるため、待ち合わせは2時と少し遅めだが、デートには変わりない。
むしろ心も身体も準備ができて余裕が持てていい方だ。
髪は巻いたし、化粧も気合を入れた。ミニスカートなんて久々に履いたし、背の高いユキの横に並ぶからと高いヒールを選んだのはキスがしたいからってわけじゃないんだからね、と一人で誤魔化す。つまりは、舞い上がっていた。
待ち合わせ場所には30分も早く着いてしまって、どれだけ楽しみなんだよ私、と少し引くくらいだ。
お陰様で知らない男の人に話しかけられるし、ナンパにしては連れ出そうとしないから断るすべもなくめんどくさい。
そうなんですか、へへ、あはは、と気の抜けた返事をしているうちにユキの姿が見え、思わず呼びかけた。
気づいたユキが歩いてくるのを見て男たちは退散する。ちょっとドヤ顔になったのは許して欲しい。
少し不満げなユキの腕に自分の腕を絡めると、機嫌を直してくれたのかすぐににやけ顔を隠すように口元を抑えた。
ごめんねユキ、と上目遣いで謝る私はなかなかに悪い女だ。彼氏のご機嫌取りなんて初めてしたけれど、少し楽しい。
私が楽しんでやっていることが嫌なのか、肘を突き出され離させようとするがその拍子に胸に当たり、柔らかかったのか、びくりと震えた身体がまたかわいい。
気にすることないのに、「当たってます」というユキをいじめたくなってしまう。
前に経験豊富な友達が言っていた「年下の男の子いじめるのって楽しいよね」という言葉に聞いた当時は賛同しかねていたが、今ならよくわかる。これはハマる。
仕方なく腕をほどくと、すぐに手を繋がれて歩き出した。いつも無理に合わせてくれる歩調が乱れているのは照れているからか。

「電器屋さんてどっち?」
「こっちですよ」
「あれ、こっちじゃ…」
「そっちは百貨店しかないですけど」

方向音痴の自覚はあったが、割と行く場所なのにこうもあやふやだとは。
態とらしく吐かれたため息は仕返しのつもりなのだろうか。腕を引かれて電器屋さんの携帯電話コーナーへ直進する。お目当てのものはすぐに見つかり、会計して店を出た。

「ごめんね、これだけなのに付き合わせちゃって」
「誘ったのはオレですよ」
「そうなんだけど、疲れてるでしょ」
「…むしろ癒されにきたんで、大丈夫です」

ほら、また照れている。
癒し度で言えば、確実に私よりユキのが上だ。こんなにかわいい生き物、見たことがない。
ファーストフード店に入りポテトとドリンクだけを注文し、二人席に着く。
普段は混雑しているが、昼飯時を外したために席にはゆとりがあった。
紙の敷かれたお盆にLサイズのポテトをばらまいて二人でつまんだ。
会話はやっぱりどうでもいいことがほとんどで、時々長いポテトの取り合いになるのが楽しい。
ユキのメロンソーダを奪い取って飲んだり、そのせいで炭酸がせり上がってきて噎せたり、私が飲んだあとのストローを咥えるのに躊躇していたり、紅茶を差し出せば首を振ったくせになんだかんだ咥えたり、そのあと啜った私に赤面したり。
好きだと言う前に口付けてきたのはユキの方だというのに、いまさら何を照れることがあるというのか。
外が暗くなってきた頃に散々居座ったファーストフード店を出て、駅で別れることとなった。
ユキは送りますと譲らなかったが、電車賃がまあまあするのだ。
代わりにキスしてとせがむと、建物の影に連れ込まれ二つキスが落とされた。
お金は浮くし、満足できるし、一石二鳥だ。
名残惜しむように離れた手は電車に乗ってもあの硬い感覚がなくならなくて、一人で手のひらをさすった。


140304






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