26


「名前ちゃんおはよ!元気そうでよかったぁ」
「お茶子おはよ!メールでも心配ないよって言ったのに…!!」
「それでも心配だったんよー!昨日は学校休みだったし」

麗日は眠たそうに教室へ入ってきた名前を見ると、一目散に駆け寄り声をかけた。
名前はいつもと変わらない様子で麗日に言葉を返すと、「そういえば一限の課題やったー?」と話を逸らした。
そのまま適当に話を続け、しぼらくして席に着けば、「皆ー!!朝のHRが始まる、席につけー!!」と、キビキビとした飯田の声が教室に響いた。飯田が瀬呂に突っ込まれていれば、「おはよう」と、相澤が教室に入ってきた。

「相澤先生復帰早えええ!!!」
「先生、無事だったのですね!!」
「無事言うんかなぁアレ…」

相澤は顔から体にかけて包帯が巻かれており、先日のヴィランによる襲撃がいかに過激なものであったかを物語っていた。
安心したり心配したりするクラスメイトを他所に、名前はただ、ミイラ男みたいっ!と考えていた。

「俺の安否はどうでもいい。何よりまだ戦いは終わってねぇ」

“戦い“という相澤の言葉に、クラスの雰囲気がピリついた。

「雄英体育祭が迫ってる!」
「クソ学校っぽいの来たあああ!!」
「…またかよ」

名前は、またこのパターンかよ!と頭を抱えたくなった。
体育祭?冗談じゃない、やってられない!
盛り上がるクラスメイトを横目に見ながら、名前は仮病でも使って適当に休もっかなぁ…なんて考えていた。

「待って待って!ヴィランに侵入されたばっかなのに大丈夫なんですか?!」
「逆に開催する事で雄英の危機管理体制が磐石だと示す…って考えらしい。警備は例年の五倍に強化するそうだ。何よりウチの体育祭は…最大のチャンス。ヴィランごときで中止していい催しじゃねぇ」
「…チャンス?」

相澤の言葉を繰り返した名前の呟きは、「いや、そこは中止しよう?」と、言った峰田に対して返答した緑谷によって掻き消された。

「峰田くん…雄英体育祭見たことないの?!」
「あるに決まってんだろ。そういうことじゃなくてよー…」

雄英体育祭を見たことがなかった名前は、相澤の話だけでなく、緑谷と峰田の会話にもついていけなかった。

「ウチの体育祭は日本のビッグイベントの1つ!かつてはオリンピックがスポーツの祭典と呼ばれ全国が熱狂した。今は知っての通り、規模も人口も縮小し形骸化した…。そして日本に於いて今、“かつてのオリンピック“に代わるのが、雄英体育祭だ!!」
「当然全国のトップヒーローも観ますのよ。スカウト目的でね!」
「へぇー、そうなんだ」

相澤の話に付け加えた八百万の呟きで、名前は雄英体育祭がヒーローを志す者にとっていかに重要なものであるか悟った。
納得したように小さく呟けば、チラリと轟が名前の方を見た。

「当然名のあるヒーロー事務所に入った方が経験値も話題性も高くなる。時間は有限。プロに見込まれればその場で将来が拓けるわけだ」
「…」
「年に1回…計3回だけのチャンス。ヒーローを志すなら絶対に外せないイベントだ!」

相澤の言葉に、クラスメイトの目付きが変わったのを名前はじっと観察していた。
体育祭なんてめんどくさい行事、サボろうかと思っていたがそうにもいかないらしい。
ヒーローを志す者として、このチャンスを逃すなんてきっと不自然だし100%怪しまれる。
はぁ…と、心の中で深いため息をつきながら、名前は一限の準備に取り掛かった。




prev next
back


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -