第11話


あの後私は、東京へ向かう前に両親と悠仁の祖父である倭助さんのお墓に立ち寄り、出発の挨拶をしていた。
和助さんは、最後に会った時はまだ元気そうだった。
私達は家族ではないけれど、悠仁と同様彼にはたくさんお世話になった。
「悠仁のこと、見守っていてね」
そうして私は仙台を離れた。





「君は何しに呪術高専へ来た?」
サングラスをかけた厳つい男性に問われる。
彼はこの東京都立呪術高等専門学校の学長で、夜蛾というらしい。
というか厳つい男性が可愛い人形作ってる事実にギャップが激しいんだけど…。
「聞いているのか?」
もう一度、高専へ来た理由を問われる。
「…大切な人を守るため」
学長は何も言わない。私の言葉の続きを待っているようだ。
「秘匿死刑になった虎杖悠仁を殺させないために、私はここで強くなる」

学長は一言、「合格だ」と告げると、外で待機している人に寮や警備について聞くように言う。
合格…というのはよく分からなかったけど、多分高専に通うにあたってとか、そういうことなのだろうか。
外には補助監督と呼ばれる人が待っており、寮の案内や高専の諸々について教えてくれた。
その後、私は案内された部屋のベッドで横になった。
「来ちゃった…呪術高専」
私は瞳を閉じて、少しの間眠りについた。





“高専着いた!!今から学長と面談!“
メッセージを知らせるバイブ音で目が覚める。
携帯を確認すると、悠仁から数件メッセージが入っていた。
“今仙台出た!爺ちゃんにも挨拶してきた!“
“東京着いた!人やべー!!“
そして最後が高専に着いたという連絡だった。
悠仁を出迎えようと身支度を整えて部屋を出る。昨日から悠仁とはまともに話をしていない。

「ん?」
何やら男子寮が騒がしい。
声のする方へ足を進めると、悠仁と伏黒、そして五条先生がいた。
「悠仁!」
「お!名前!」
悠仁はもう部屋に着いていたようで、お出迎えは出来なかった。残念。

「もしかして伏黒と隣?」
伏黒が迷惑そうな顔をしている。こいつ露骨すぎるな…。
「あぁ、ありがた迷惑だ」
悠仁は少しショックを受けた様でポカンとした表情を見せる。

「名前も来たし丁度いいや。明日はお出かけだよ!」
五条先生が嬉しそうに手を叩く。
「4人目の1年生を迎えに行きます」
「え?4人目??」
てっきり私達3人だけかと思っていたので驚いた。
「そう!しかも名前良かったね〜、女の子だよ」
五条先生が笑顔で告げる。
「女の子…」

正直、今までろくに友達が出来たことがないので上手く関係を作れるか不安だった。
人数も少ないし、しかも女の子。
どんな子かな?私上手くやれるかな…。
ちらりと悠仁を見やると、彼は“大丈夫“というように、安心する笑顔で大きく頷いてくれた。



「悠仁、バタバタしてて色々話せなかったけど本当に大丈夫?」
あの後五条先生と伏黒と解散し、私は悠仁の部屋にお邪魔していた。
悠仁はもうお気に入りのポスターを貼っていた。相変わらずやること早いな。
「おう。まぁこんなことになっちまったけど、爺ちゃんのこともあるし、呪いはほっとけねぇよ」
悠仁は、爺ちゃんは最後に“大勢に囲まれて死ね“って遺言残したんだよ。と続ける。
「でも俺が呪術師になるのは爺ちゃんの遺言のせいじゃない。俺が決めたんだ」
悠仁がぐっと拳を握る。
「テメェの死に様はもう決めてんだ」
悠仁の声は固くて、私は思わず彼の手を握っていた。

「私もいるから。絶対悠仁を死刑になんてさせないから。ずっと傍にいるからね」
「はは、なんかすげー心強い。でもそんな事よりさ、名前は本当にいいのか?仙台では名前が決めたならいいけどって言ったけど、やっぱり俺心配」
そう言って、悠仁は心配そうにこちらを見る。
「うん…でもいいの。私強くならなきゃいけないし、悠仁と一緒にいたいから」
その言葉に悠仁は困ったように笑ったため、言葉選びに間違えたかと思ったが、突然聞こえた愉快そうな声に一瞬思考が止まる。

「お前はあの時の女か」
悠仁の頬に口がいた。喋っている。
「こんなに近くにいたとはな。よいよい、小僧の体を物にしてすぐに殺してや」
ベチンッ。
悠仁が頬を思いっきり叩く。
「わりぃ名前、こいつちょくちょく出てくんだよ」
頬に出現した口は今度は手の甲に現れ、ケヒケヒと笑っている。
「もしかして…宿儺?」
「俺を呼び捨てとは、いい度胸をしているな小娘」
宿儺の笑い声が止まる。
「礼儀のなさはその血筋か」
「ッ!」

「お前もう黙れ!」
悠仁が先程よりも強い力で手の甲を叩く。
宿儺は反対の手に移動すると、「殺してやるのを楽しみに待っていろ」と言って消えていった。
「名前、大丈夫か?」
「うん」
宿儺は知っていた。私の血のことを。
これから呪術と関わっていくことで、嫌でも突きつけられる事実。
「でも私には関係ないから」

私は悠仁以外、何も要らないから。



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