カラダも全て縄で縛って
心理的な強制により、ヒトは怖れを抱く
だからこそ、おまえを強く縛れなかった
代償の痛み……
どうせ全てを失うのなら、この手で楽にしてやれば良かったのか?
決して戻れぬ時を殺すように、人形を呪縛し己の手で破壊する
第5話【呪縛】
〜sacrifice〜
灰色の雲が、天空を覆う。
音も立てず、静かに舞うように落ちてくる白い結晶は、やがて何事もなかったかのように地に溶ける。
儚い一瞬。
それを誰も気にすることなく、人々は忙しなく行き交う。
その様子を、黙って窓から見下ろしていた。
「……ロゼ」
名を呼ばれ、瞬時に振り向く。
己の主人の呼び付けは絶対だ。
それが"慣れ"のように、セフィロスの許へ走り寄る。
出掛けるのだろうか?
私服のブラックコートを羽織っているが、顔を半分隠すようにコートの襟を立てている。
寒い冬の装いと言うより、何かから身を隠しているように見えた。
「出掛けるぞ、支度しろ」
日常と変わりのない口調だったが、ロゼは飛び上がるように喜ぶ。
海へ行って以来、外へ出ることはなかった。
ロゼは急いで自分のコートを取りに行くと、玄関で待っていたセフィロスに駆け寄った。
*****
車を走らせ、ミッドガルの市街地に向かう。
ロゼは、この車が大好きだった。
ふわふわのシート。
ほんのり香る、セフィロスが愛用する煙草の匂い。
窓から見える、目まぐるしいほど変わる景色。
そして何より、セフィロスが隣に居ること。
いつも向かう先はアオイの家だが、今日は違う"どこか"へ連れて行ってくれると言う。
ロゼは、期待で胸が張り裂けそうだった。
「どこ行くの?……海?」
余程楽しかったのか、ロゼは"海"に行きたいと暇さえあれば騒ぐ。
足をバタつかせ声を弾ませるロゼに、セフィロスは"否定"の表情を出す。
他人から見れば、何ら変わりのないように見えるセフィロスの表情だが、ロゼは逸早くそれに反応する。
行き先が海でないことを察知すると、足を床に下ろし窓の外を眺め出した。
明日は、クリスマスイヴ。
ミッドガルの街中は、装飾とネオンで埋め尽くされていた。
「……クリスマスプレゼント、買ってやる」
静かな車内で、突然セフィロスは口を開いた。
その言葉に、ロゼは素早く反応し彼を見つめる。
視線を変えず、前を向き運転するセフィロスだったが、間違いなく彼は言った。
"人形"に"贈り物"を与えるなど、セフィロスにとっては有り得ないことだったが、ザックスとアオイに"せめてプレゼントぐらいあげて。"と散々言われ、仕方なくロゼを連れて来た事実。
だがロゼにとって、そんなことは関係ない。
プレゼントを買って貰えるなんて、思ってもみなかった。
声を出さずに満面の笑みを浮かべた。