二度と戻れもしない感覚的刺激に溺れ、闇に溶け込む
惨めな自分に、"神"はまた俺を破滅を与える
それとも、許されない自分への罰なのか?
幻覚は少しずつ心を侵略し、やがて全てを蝕む
薬漬けにされたように昏睡された身体は、小さな人形に慰められる
第2話【幻覚】
〜existence〜
玄関のオートロックを外すセフィロス。
片手に、小さな"人形"を抱えて。
部屋に入ると、そのまま真っ直ぐ寝室へ向かう。
ベッドの上へ、静かに"人形"を下ろした。
*****
「兄ちゃん、あんた最高のクリスマスプレゼントを手にしたなぁ」
店主が下劣に笑いながら言う。
腹の中に怒りを溜めながらも、黙って小切手にサインをするセフィロス。
破格とも言える"人形"の金額は、恐らく大抵の凡人では手をつけられるものではないだろう。
しかし、セフィロスは惜しげもなくその金額を出した。
"人形"がその値段に相応しいと思ったからだ。
それだけの美しさを備えている。
「大切に可愛がってやりな」
小切手を手にした店主は、嬉しそうにセフィロスに告げた。
だが彼はそれを無視するかのように、店主の傍を通り越し"人形"の許へ向かった。
相変わらず薔薇色の瞳を揺らぎ、自分を見つめる"人形"。
すっと両手を差し出し、"人形"を抱き上げた。
羽のように軽く上がる身体。
教えたわけではないが、自分の首に両腕を絡ませてくる。
"人形"の膝から落ちた薔薇を拾うと、黙って店を後にした。