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「……醜い」
自分で事を起こしたとは言え、目の前に広がるモンスターや人間の死体から異臭が放たれる。
酷く慣れてはいるが、その醜態に思わず言葉が吐き出た。
立て続けに厄介な事が続き、朝っぱらから村人や多数のモンスターが襲い掛かれば、肉体的にも精神的にも疲れを感じる。
どうせ殺すのならいっその事、村を焼き払ってしまえば良いと思う時もある。
「っ、セフィロス!」
背後からひとり分の駆け寄る音と、聞き慣れた声で自分が呼ばれたことに気付く。
振り返らずに、ただ一点を変わらず見入っていた。
「おっと、こっちは片付いたのか。それにしても、随分とまた派手に散らかしたなぁ……」
溜息とも似た息を吐き出しながら、ザックスは困ったかのように頭を掻きむしった。
ここまで犠牲を出さなくても済んだ筈、と思いつつも言葉を無理矢理自身の中へ詰める。
それが、"彼のやり方"なのだ。
「全く……こんなにも時間を掛けて暴動など、面倒なことを」
反神羅を掲げた、村人たち。
かの有名な英雄に敵わぬと知っていながらも、暴動を挑む気迫の凄まじさ。
全ては自分たちの住む村を守る為に。
それを、その一言で片付けてしまうとは……
ザックスは唇を一本線に強く結ぶと、一言も発せずに両手を合わせライフストリームに還る魂たちに祈った。
戦場でよく見る彼の行動を何も思いもしないのか、セフィロスは目に入れぬまま基地へと足を向け出す。
続くように、ザックスが後を追った。
「おい、セフィロス!」
「騒々しい。何だ?」
煩わしく飛ぶ蝿を追い払うかのように、左手を振るセフィロスにザックスが突っ掛かった。
「……オレたちは、何で戦うんだ?」
当たり前のような言葉に、セフィロスは思わず足を止めた。
ゆっくりとザックスの顔を見る。
「っ、……オレたちは、餓えたモンスターじゃないだろ?」
強い視線から逃げるように、ザックスは顔を素早く背け、地面を見つめながら深い思いを口にした。
「…………」
「…………」
太陽がもう直ぐ陰る。
夕陽が眩しいほどに照らされていた。
だが、まるで渦を巻くように闇に囲われる感覚……
口を開かぬセフィロスは、ただ強い気迫だけを放っていた。
「俺は……ソルジャーだ」
闇を裂くような一言。
少し間を置き、ザックスに背を見せると眩しい太陽を見つめる。
「ソルジャーは戦っていれば良い……少なくとも、俺はな」
小さな沈黙が流れ始めた時、背後から物凄い轟音が聞こえてきた。
「あっちはまだ終わってないみたいだな……」
応戦に向かうザックスは、"後で。"と答え先を急いだ。
そんな彼を横目で見ていたセフィロスも歩き始める。
――――紅く染まったこの手を、誰が救ってくれると言うのか?
「今日も月は……紅い、か」
心なしか、昨夜よりも大きく見える紅月。
"何"を意味するかも知らずに……