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事を終え、小さな寝息を立てるロゼ。
傷すら無い白い肌を、シーツの中に隠して。
彼女の横で、セフィロスは静かに煙草をふかしていた。
窓の外には、相変わらずの紅い月。
その眩しさが自分らを照らす。
そっとロゼに視線を映した。
飾りひとつないロゼは、正にロゼそのものだった。
彼女を失ったことを諦めていた自分も居れば、心底どこかで求めていた自分も居たのだろう。
――――神の好意か、それとも悪戯か……?
どちらにせよ、この手の中に彼女は居る。
それが例え偽りでも、真実であっても。
引き裂かれた旋律が、再び揺れ始めて……
「ロゼ……」
彼女を覆うように、セフィロスはロゼの金色の髪に口付ける。
起こすつもりはなかったが、擽ったさにロゼは軽く瞳を開けた。
「セフィ……?」
甘えるように、彼の首に腕を絡める。
微かな互いの温もり。
それは、いつまで経っても満たされることなく求められる。
額と額を合わせた、その時だった。
単純な音が、テーブルの上から鳴り響く。
セフィロスの携帯。
メールだろう、それを煩わしく手に取ると、大きな溜息を落とす。
「すまない、緊急任務だ。ここから一歩も出るなよ」
宥めるように片腕でベッドの上の彼女を柔らかく抱くと、素早く服を纏う。
軽く頷いたロゼは黙ってセフィロスを見つめていた。
支度を整えたセフィロスは、最後にロゼの頭を軽く撫でながら外に向かう。
「早く、帰って来て……」
祈るような、切ない声。
あまり気にはしなかったが、それを受け止め扉を閉めた。
「……時間が……ない、の……」
一瞬にして暗くなるロゼの表情。
もちろん、その声が彼に届いてはいなかった。
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未だ朝陽も昇らない夜明け前。
紅い月が薄っすらと消えていく。
ふとセフィロスは見上げ、基地の外から自分の使用する部屋を見た。
窓から張り付くように、ロゼが見ている。
立ち止まり、口元を緩ませた表情を見せると、ロゼも同じく微笑んでいた。
安堵感を覚えたセフィロス。
そんな自分が可笑しいように、一度視線を背けると自らを嘲笑する。
再びゆっくりと窓を見ると、そこにはもうロゼの姿はなかった。
中に引っ込んだのだろうか。
そう思いながら、止めていた足を進める。
漸く、眩しい朝陽が顔を出した……