[Dolls] -rose- | ナノ

【Dolls】-rose-

Another. 月の記憶 (6/11)

*****



仕事を終え、基地に戻るセフィロス。

すっかりと暗くなった空。
そして、その中心に浮かぶ……



「紅い月……」


見上げた視線を逸らすことなく、小さく呟く。


――――騙されているのは、俺か?
それとも、この世界なのか……





兵たちの宿舎とは離れ、幹部クラスの人間が持て成される為にある建物。
その中に、セフィロスがここに滞在する間使用する部屋がある。


カードキーを通し、ノブに触れる。
少しだけ部屋の中から漏れる明かり。
間違いなく人の気配……

鋭く警戒しながら扉を開いた。



「おかえりなさい!」


弾むような甘い声。
それ故、懐かしさを重んじる。

一瞬セフィロスは目を眩ませたが、片手で顔を覆いながら正気に戻った。


「っ、ロゼ……何故?」

「何故って……?」


きょとんとした表情でセフィロスを見上げるロゼ。

昨夜は服など何も着ていなかった筈の彼女だったが、身に合う白いワンピースを纏っている。

よく見れば、それは彼女の葬儀に着せた物。
そして、左手の薬指には銀色のリング。


「おまえは、一体……」

「どうしたの、セフィ?……何だか具合が悪いみたい」


この情況で夢を見ているとは思えない。
本当に、彼女は"ロゼ"なのだろうか……


「……いや、何でもない」


冷静を装うと、セフィロスは彼女から目を背けた。
そんな彼を不審に思いながらも、ロゼは部屋に用意されている簡易キッチンへと足を運ぶ。
何やら美味しそうな香りが漂ってきた。


「ご飯、作ってみたの……食べる?」


照れたように彼女は笑う。
弾むように半回転すると、セフィロスをテーブルに座るよう促す。


「ロゼ……料理なんかどこで覚えたんだ?」


より一層、彼女が"ロゼ"であることに疑わしく感じる。
それでも、口調、仕草、そしてこの雰囲気こそが間違いなくロゼである。


「ふふっ、それは内緒」


可愛らしく人差し指を自身の唇に宛て、首を傾けるロゼ。
彼女の幼き頃からみていた"人形"とは格別に変わった"女"……


「……不味い?」


下から覗き込むように見るロゼに気付き、セフィロスはすぐに気を取り戻した。


「いや……」


続かない会話に終止符を打ったのはロゼだった。
小さな笑い声を零して。


「何か、可笑しいか?」

「ううん。なんか……嬉しいなって思ったの」


手に持つスプーンを、音も立てず静かにテーブル上に置く。
軽く俯きながら更に続ける。


「ずっと、こうして居たかったから……」

「どういう意味だ?」

「"オトナ"になって、セフィと結婚して……それで……」


次第に小さくなる声。
彼女の夢は、彼女の母親に近い存在であり、また親友であるアオイから聞いていた。

そして、"オトナ"になれない真実を知った……



「おまえの好きにすればいい。
この任務が終わったらミッドガルへ帰る。落ち着いたら……」



――――落ち着いたら、どうするんだ……?


自身で口にしながらも、その言葉に疑問を抱いた。

ロゼをミッドガルへ連れて帰って……

だが、彼女が"ロゼ"と確実に決まった訳では無い。
しかし、拒めないのも確か。
いつから、自分はこんなにも堕落してしまったのか?


……違う。

彼女は……ロゼは死んだ筈だ。





「……みんな元気?」


ニッコリと微笑むロゼ。
一瞬彼女に顔を向けたが、直ぐに背けた。


「ああ。それに、ザックスもここに居るぞ……呼ぶか?」


だがロゼは目線を下げると、少し間を置いて首を横に振る。
そうか。と答えると、セフィロスも手に持つスプーンを静かに置いた。


「あたしのことは、まだ誰にも言わないで」

「ロゼ……?」


初めて見せる、彼女の悲しい瞳。
それ故、理由をも聞かせぬような仕草。


「今は……セフィと一緒に居たいの」


柔らかく口元を緩ませた彼女は、正に"オトナ"そのものだった。


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