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カーテンを閉めずに寝入ってしまった為、朝陽が遠慮することなく入り込んでくる。
その眩しさが、痛いほど眩しい。
眉を顰めながらセフィロスは目覚めた。
ふと昨夜の事を思い出す。
「……っ、ロゼ?」
布団を捲ってみるが、その姿はなかった。
シーツを触れてみても、体温の名残すらない。
確かにこの腕で抱いていた。
夢……にしては出来過ぎている。
だが、室内には人の気配すら感じない。
「……随分と馬鹿げた夢だ」
左手で顔を覆うと、次第に声を出しながら笑う。
惨めに堕ちていく自分が、心を掻き乱す。
目覚めた朝は、またいつもの日常……
「おはようございます!サー・セフィロス!」
廊下を通る度、同じような挨拶が飛び交う。
くどくどしいほど煩わしい。
基地の外へ出ようとした時だった。
「お待ちください、サー!
本日は、わたくしもお供させていただきます」
振り返れば、昨日部屋に案内してくれたこの基地の隊長である男。
装備をしっかりと備え、言葉通り護衛をするのであろう。
セフィロスは一瞬疎ましく思えたが、拒否するのすら面倒に感じ有無を言わぬまま先を歩き始めた。
多寡が村の情況を調べるだけに、こんなにも重苦しい思いをした事はあっただろうか。
無駄に口が多い隊長に、聞く耳を持つつもりは無くても時間が経てば苛立つ。
彼にとってみれば、セフィロスのご機嫌取りのつもりなのだろう。
だが、逆にそれがマイナスになっている事など知らぬ隊長は相変わらず口が軽い。
「……ところで」
何を言っても無駄であろう男に、セフィロスはふと疑問に思った事を聞こうと彼の話を止めた。
問い掛けられたのが逆に嬉しかったのか、隊長は揉み手をしながら笑顔で待っている。
「ここの月が紅く見えるは何故だ?」
だが隊長はセフィロスの問いを聞くと、これまでの喋りが嘘のように黙る。
「ご、ご冗談でしょう……」
「冗談……?」
目を細め、疑うように威圧を掛けるセフィロスに隊長はたじろいだ。
――――やはり自分の幻覚か……
自身の心に言い聞かせ、隊長から顔を背ける。
「あ、あの……」
歩き始めた時、背後から呼び止められた。
振り返りはしなかったが、足を止め耳を傾ける。
「昔からの言い伝えで、赤く見える月は災いが起こると言うのがありまして……」
「……それで?」
「い、いえ……出過ぎた事を申しました」
おずおずと引き下がる隊長を冷ややかな目で送る。
答えぬまま、セフィロスは先を歩いた。
――――災い、か……
見えぬように口元だけを緩ませて。