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ザックスが部屋を去り、いつの間にか眠ってしまったようだ。
――――"深淵の謎、それは女神の贈り物。我らは求め、飛び立った……
彷徨い続ける心の水面に微かなさざ波を立てて……"
まるで、覚醒されるような羅列……
瞬間、どくんと大きく胸が高鳴った。
何事かと上半身を飛び起こすセフィロス。
だが、部屋は静けさのまま何も変わりはない。
視線を床に落とし、溜息を零した。
が、不意に湧く妙な感触に、素早く振り返り窓の先を見た。
「っ……馬鹿な?!」
真暗な空に、大きくひとつ浮かんだ月。
だが、その月の色は目を疑うような紅色に満ちていた。
これまで見たことのない月色に、セフィロスは驚きながら静かに窓を開ける。
「フ……ここは月が紅く変わるのか?それとも俺の目が……」
咄嗟のことにどちらが幻想か解らず、苦笑を浮かべながらセフィロスは呟いた。
在り得ない光景ながらも、何故か感じる胸の奥底に鼓動が速くなるのに気付く。
もちろん理由などないが、セフィロスは思いつくまま部屋を飛び出した。
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「サー・セフィロス!
こんな夜更けにどちらへ行かれますか?」
基地の入口に向かったセフィロスは、番をしていた兵に足止めされる。
「どこへだっていいだろう。ここを開けろ」
「ダメですよ、危険です!
……ここの村の夜は、何だか様子がおかしいんです」
「どういう意味だ?」
「以前にも興味本位で夜に脱走した兵が帰ってこなくなり、明朝探したところ変死して見つかった例など幾つかありまして……」
「くだらん、俺には関係ない」
止める兵を簡単に振り切ったセフィロスは、大きな鉄の扉を片手で開け、夜の闇に消えていった。