「……貸せ!」
更に顔を歪ませ泣きじゃくるアオイから、セフィロスは強引にロゼの身体を奪った。
「ロゼ……ロゼ?起きるんだ……起きろっ!!」
セフィロスは何度もロゼの身体を激しく揺らし、呼び掛けた。
だが、何の反応も示さない。
更に強く、彼女を揺らす。
「セフィロス……もう瞳孔が開いてる。助からない……」
見るに見かねたザックスが、セフィロスの肩にそっと手を置く。
彼の言葉に、セフィロスは酷く顔を歪ませた。
すると、思いもよらない行動を始めた。
静かな海岸に、渇く音が何度も繰り返される……
「やめてっ!!お願い、セフィロス!やめてぇーっ!!」
アオイの叫ぶ声。
セフィロスは凄まじい形相で、ロゼの頬を強く何度も引っ叩き出した。
無論、それでも反応を示すことはない。
痛がることも、泣き出すこともせず、ただ無表情のまま顔を左右に動かされていた。
アオイは、泣きながらセフィロスを止めようと彼の腕を強く引っ張る。
しかし邪魔をするなと言うように、セフィロスの強い力によって弾き飛ばされた。
「アオイっ!!」
ザックスは、彼女に慌てて駆け寄った。
身体を何とか起こしたアオイは、彼を止めて。と瞳でザックスに強く訴える。
「おい、もう止めろ!!」
未だロゼを叩き続けるセフィロスに、ザックスは彼の肩を強く掴み止めた。
それでも手を止めず、遂には彼の頬を殴った。
漸く納まった哀しい音。
そして、誰もが感じる言いようのない悲しみ……
セフィロスの口角から垂れ落ちる血。
痛みすら感じないが、それを手で拭いながらザックスを鋭く睨む。
「……ロゼ、痛がってんだろ」
ザックスは呼吸を乱しながら、目を閉じた。
その言葉に、セフィロスはロゼの顔に目を向ける。
先程まで青褪めていた顔色が、両頬だけ赤く腫れあがっていた。
――――ローサは、何故死んだ?
俺が……俺が、愛したからだ。
だから……
だから、ロゼを愛せなかった。
もう、失いたくなかったから……
セフィロスは、ロゼを抱きながら立ち上がった。
そして、二人に背を向けて歩き出す。
「っ、セフィロス!ロゼを……どうするの……?」
アオイの声に、セフィロスは立ち止まる。
「……家に帰るだけだ。こいつの……家に」
そう静かに言い残すと、ロゼを連れ車へと向かった。
顔を両手で覆いながら泣き続けるアオイを、ザックスは優しく抱き締める。
彼らは、黙って見送った。