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「あれ……セフィロス、何でここにいるんだ?」
任務から戻ったザックスがオフィスに入ると、デスクに座り茫然と窓の外を見入るセフィロスの姿に驚いた。
今日という日に、セフィロスがオフィスに居る筈が無い。
何故なら嘗て自分の仲間の、そして彼の大切な妹の命日であるから……
彼女の最後の願いであった、"クリスマスイヴは一緒に居てくれること"。
その望みを叶える為に、セフィロスは毎年早朝から夜遅くまでローサの許に居る。
それが、彼女の供養となるのだろう。
「思わぬトラブルがあってな」
鼻で笑うと、セフィロスは立ち上がり、傍の窓に寄る。
見下ろせば、ネオンが眩しいぐらいに光っていた。
それを、闇の空から舞い落ちる粉雪が一面を覆う。
「それも……直ぐに解消出来たが」
まるで仕事をしていたかのような口調。
そうか、とザックスもわざと話を合わせながらも、落ち着かない面持ちでセフィロスを見入る。
隙のない、暗い影。
闇に支配された瞳。
読めない心を示す表情は、冷淡で近寄り難い。
自分やアオイですら恐ろしいと感じたことが暫しあった。
だが、それをロゼだけが簡単に解いた。
「……なあ、今夜これから」
「行かないと言っているだろう」
ザックスが意を決して口にすると、その意味が直ぐに解るセフィロスは窓の外を眺めながら言葉を遮った。
声を詰まらせ頭を掻きながら、ザックスは寛大な溜息を零す。
「それでも、ロゼは待ってるぞ?」
ガラス越しに映るザックスを、セフィロスは静かに見つめる。
そして、瞳を閉じたと同時に口を開いた。
「……ローサが死んだ時も、こんな雪の日だったか」
突然意味もなく言い出したセフィロスに、ザックスは怪訝な表情を浮かべる。
ゆっくり開いた瞳で空を見上げながら、セフィロスは続けた。
「そして、ロゼを買った日も……」
店先のショーウィンドウへ、流した視線に入り込んだ衝撃の一瞬。
正に、ローサの生まれ変わりだと思った。
これまで自分を観る輩は、恐怖に脅える者か欲を満たしたいと願う女か……
だが、ロゼは薔薇色の瞳で直視していた。
人間の醜さが全くなく、また何か助けを求めるように……
「ロゼは、セフィロスを必要としている。おまえもそうなんだろ?」
ストレートな言葉に、セフィロスは怒りを示すかと思った。
だが窓から離れデスクに座ると、再び重い口を開く。
「あいつは……ロゼは、俺が苦しめてばかりだった」
それでも、愛されたいと願う情緒。
自分のどこに惹かれ、何を想い、何を求めるのだろう……
「思いが深すぎて、ロゼを汚すことは出来ない」
デスクに両肘を付け、組んだ手の上に額を乗せるセフィロス。
ザックスはただ黙って聞いている。
「もし、この身が汚れてなければ……俺は間違いなくロゼを愛していた」
「セフィロス……」
セフィロスの深い念に、ザックスは言葉を失い掛ける。
とその時、ザックスの携帯電話が鳴り響いた。
直ぐ様、電話に出るザックス。
「アオイか?どうした……」
「――――っ、ロゼが!ロゼが、どこにもいないの!!」
電話口から漏れる、アオイの甲高い声。
セフィロスは、直ぐに立ち上がった。
「馬鹿な……大人しく待っているように言った筈だ」
奪うようにザックスから携帯を取ると、アオイに向かって答える。
「――――セフィロスから連絡もらって直ぐに行ったんだけど……
でも、鍵が開けっ放しで誰もいなくて……辺りも、どこにもいないの」
「どこかで迷子になっているのかもしれない。俺も直ぐ向かう。アオイも、もう少し心当たりを探してくれ」
セフィロスは簡潔に言うと、ザックスに携帯を押し付け、傍にあったコートを羽織ると直ぐに部屋から出た。
携帯を耳に当てながら、ザックスはセフィロスの後を慌てて追った。