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静かに、墓石の前で跪くセフィロス。
何も語らず、その刻銘だけを見つめている。
美しきローサ。
この世には存在しない儚さ。
彼女を亡くしてから八年。
たくさんの出来事があった。
それは、一言では語りきれない……
「……"復讐"なんて、結局は己の利己に過ぎなかったのか」
苦笑を浮かべ、呟くように吐く。
ロゼを手に掛けることもなく、身に余る思いで手放した。
全てをローサと同じく仕立て、この手で殺めてやろうと思っていた。
だが生まれた感情は、醜い葛藤……
「おまえを裏切り、そしてロゼをも裏切った……」
罰。
それ故、与えられる"孤独"。
ローサを苦しめた挙句害した上、ロゼを愛そうなど馬鹿げた話。
"純粋"の塊とも言えるロゼを、この穢れた手で幸せになど出来やしない。
そんな惨めな思考を持つ自分を、心中嘲笑う。
「俺は……苦悶に浸っているのが、相応なんだな」
片手で顔を覆い、侘しさ残る笑みを浮かべた。
とその時、セフィロスの携帯が鳴った。
ローサとの時間故、出るつもりは更々なかったが、取り出し表示を見ると"アオイ"の文字。
ロゼに何かあったのか、と通話ボタンを押した。
「……何だ?」
至って機嫌の悪い声。
寒空の下でもある為、声が一際低い。
そんなセフィロスを余所に、アオイの甲高い声が耳障りなほど響いた。
「――――ロゼが……ロゼがいなくなっちゃったの!近所を探し回ったけどいなくて……
もしかしてあの子、セフィロスの家に行ったんじゃないかしら?」
焦りを表すアオイの声。
臨月に近付いている為、そう遠くへは捜せない。
外に面識の無いロゼが見つからないとなれば、考えられるのはセフィロスの家。
口には殆ど出さないが、常々帰りたいと意思表示していたのは暗黙の了解。
迎えの兆しが無い焦りに瀕したのか、自身で帰ったとなれば納得がいく。
「わかった、直ぐ戻る」
アオイとは異なり、至って冷静にセフィロスは返した。
彼女の言葉も聞かずに電話を切ると、ゆっくりと立ち上がる。
「悪いな、急用だ」
微笑を浮かべ、返答の無い墓石に告げる。
毎年の癖で、供えた薔薇の花束から幾つか抜こうとしたが、ふと動きを止めた。
「ああ、もう良いんだ……もう、必要ない……」
そう言い残すと、何も手にせず、背を向けその場を去ろうとする。
その瞬間、大きな寒風が横切った。
たくさんの薔薇の花弁が大きく舞い上がる。
風に作られた、小さな赤い竜巻に囲まれるセフィロス。
天に昇っていく深紅の花弁。
もしや、ローサが何か告げているのだろうか……
その意味すら解らず、花弁が消えるまで天を仰いだ。