[Dolls] -rose- | ナノ

【Dolls】-rose-

12. 孤独 (1/5)

聞こえない叫び声
残されたカラダ

優しさに飢えていた感情
螺旋を画く強い想いが、今も惑わしている

括った心を、残酷にも解放した
最後の"復讐"……


人形孤独を授ける









第12話【孤独】
〜merciless〜







――――12月24日、早朝



「ただいまー!」


アオイと共に、ロゼは家の玄関を開けた。

今年は例年より寒く、朝から雪が積もっていた。
だがそんな寒さすら気にもならず、ロゼは楽しそうに笑っている。


「ロゼ、ほら早く着替えなさい。風邪でも引いたら一大事なんだから……」


久しぶりに帰宅したロゼは、嬉しさのあまり部屋中を走り回り、落ち着きの無いようにそわそわしている。
そんな彼女を、アオイは眉を顰め注意を促した。

肩を竦め返事をするロゼは、自分の荷物が置いてある部屋へと向かった。





クローゼットを開け、今日は何の服を着ようかと迷う。

折角の誕生日に加え、セフィロスが来てくれる可能性を察し、目一杯お洒落をしたい。
少し気が進まないが、彼が喜ぶのならと、昨年と同じく白いファードレスを着ることに決めた。


ドレスを纏い、全身鏡の前でくるりと回る。

去年と異なり、少し緩んだような気もした。
だが、この姿を見たセフィロスが"美しい"と愛でることを思うだけで、期待に胸が疼く。

そっと鏡に右手を当てる。
同じく、鏡の中の自分も左手を当てて……



初めてセフィロスと出会った、五年前の今日。

それまで寂寥と憂慮に、精神が押し潰されそうになっていた。
しかしセフィロスが自分に触れた瞬間、生まれてから味わったことの無い暖かさと、微熱から伝わる優しさに心惹かれた。

名も知らぬ、また知らぬ言葉を話す彼に、怖れなど何一つなかった。
ただ彼の下に行きたい、彼に愛されたいと、芯から願った。

頬に触れられた彼の手が放されてしまえば、それは夢に終わると感じた。
そっと手を離すセフィロスに、願うように両手で掴み、伝わらない言葉を瞳で示した。
鋭く冷たい碧緑の瞳の中に映る、侘しい闇。

自分と同じ、悲しき過去を持つ……


苦笑を鏡の中の自分に向け、静かに部屋を後にした。





キッチンでは、アオイがパーティーの準備をしていた。
料理上手なアオイであるからこそ、腹を空かせるような良い香りが漂っている。

手伝おうとロゼはアオイの横に並ぶが、今日は主役であるが上、身体のことも気遣われ、やんわりと断られた。
仕方なくリビングの床にペッタリと座り、テレビを付ける。
幾つかのチャンネルを回すが、どれもクリスマスの番組だらけ。
サンタの格好をしたアナウンサーが、道を歩くカップルにインタビューをしていた。


「……ねえ、アオイちゃん?」

「なあに?」


アオイに背を向け、彼女の名を呼ぶ。

聞くのは止そうと思っていたが、思わず口を開いてしまった。

対面キッチンから、アオイの活気ある返事が返ってくる。
トントン、とリズム良い包丁の切れる音も含めて。


「……セフィ、今日来るよね?」


小さく震えるロゼの声。

その瞬間、包丁の音が止まった。
直ぐに言葉が返ってこない。


「あ、あのね、ロゼ……
セフィロスは、今日仕事があるから……来れないんだって」


小さな沈黙の後、アオイが細々と喋る。
振り返らず、静かにロゼは耳にした。


それは、彼が言ったことか。
それとも、アオイの精一杯の嘘か……

彼は、どんなに忙しくても今日だけは仕事を休む。
セフィロスが愛する、"彼女"の許へ行く日だと。

解り切っていた筈。
なのに何故こんなにも期待をし、彼を信じ彼を待つのだろう。



「……ロゼ?」


返答もなく、びくりとも動かないロゼに不安が生じ、アオイは限界の声を絞り名を呼ぶ。
やがて小さな声を出すロゼに、アオイは言葉を続けた。


「また……日を改めてお祝いに来てくれるわよ。
だから、今日はザックスと三人で盛大にお祝いしましょ!」


アオイは嘘が下手だ。
振り返られずとも、彼女の浮かべる笑みが想像できる。

それが、アオイの優しさ。
知っているからこそ、尚辛い。


声を出さず、アオイに見えるようにロゼは大きく一回頷いた。
それに安心したのか、再び聞こえてくる壮快な包丁の音。



床に落とした視線を、ふと上げる。
ブラウン管に映る、大きなクリスマスツリーの映像。

ロゼは、我に返るように思い出した。








「あら……ロゼ、どこ?」


暫くしてアオイがリビングへ視線を向けると、テレビの音だけを残しロゼの姿が見当たらない。

トイレにでも行っているのか?
その割には、時間が経ちすぎている。

幼心の残るロゼだからこそ、脅かす為にどこかの部屋に隠れているのか。
それとも、セフィロスが来ない寂しさにベッドの中に潜り込んでいるのか……

だが、全ての部屋を探してもロゼはいない。


少しだけ昂る心臓。
ふと、玄関を覗いた。


「……まさか?!」


ある筈の、ロゼの靴。
それが無いとなると、恐らく外に出たのか。

アオイは、慌てて玄関から飛び出した。


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