「ほ、ほんとに……?!」
病室のベッドの上。
ロゼは、口元に両手を沿え、喜びの声を挙げた。
奇跡と言うほどに、あれから少しずつ意識を取り戻した。
今ではすっかり起き上がり、歩くことも可能となる。
外は寒風が流れ、時折雪が散らつく。
街には色取り取りのネオンが溢れ、迫るクリスマスムードで賑わっていた。
それは、ロゼの誕生日も意味する。
「ほんとに、ほんとに誕生日してもいいの?」
アオイの腕を掴み、満面の笑みを浮かべるロゼ。
それに釣られるように、アオイも笑顔で答えた。
「ええ、お医者様も二日だけなら外泊しても良いって言ってたし。だから、クリスマスはお家に帰りましょ」
ロゼに視線を合わせ、偽りがないことを示す。
両手で顔を覆い、嬉しさのあまり身体を震わせていた。
そっと手の指から瞳を覗かせ、アオイに向ける。
「ねえ……セフィ、来てくれるかな……?」
言葉を詰まらせ、不安の様子が窺える。
アオイは心の奥で戸惑いを生むが、彼女に心配させぬよう直ぐに笑みを浮かべた。
「もちろん!ロゼの誕生日だもの、きっとお祝いに来てくれるわ」
その言葉に、ロゼは安堵の笑顔を見せた。
窓辺に視線を映し、花瓶の枯れ始めた薔薇の花を見入る。
――――もう少し、もう少しで……
焦る気持ちと、少しばかり残る期待の願いに、心が破裂しそうだった。
*****
一方、神羅ビル。
「待てよ!行かないって……どういうことだ?」
玄関ロビーを素早く歩くセフィロスに、ザックスは追い掛けながら怒鳴った。
彼の声が、ホール内に響く。
体調が少しばかりか好くなり、一時退院するロゼの誕生日を祝うよう、ザックスはセフィロスに頼んだ。
しかし、彼は望んだ答えを出さなかった。
漸くセフィロスの腕を力強く捕まえると、睨むように見上げた。
溜息を一つ零しながら、セフィロスは口を開く。
「何故、俺が行かなくてはならない?」
「っ……ロゼが待っているだろ?」
瞳を閉じながら、セフィロスは煩わしそうに返す。
「……生憎、その日は予定がある」
言わずとも知っている。
毎年の如く、クリスマスイヴに自害したローサの許へ向かう。
それは、生きていた頃の彼女との約束。
それだけがセフィロスにとって、ローサへの侘びとなるのだろう。
「……だから、"それ"が終わってからで良いんだ。一目でいいからロゼに」
「あいつを、期待させる気か?」
俯き口を開くザックスの言葉が終わる前に、セフィロスが遮った。
確かに、セフィロスの言うことも一理ある。
だが現時点のロゼは、強くセフィロスを求めている。
それにより、彼女の生命がかかっていると言っても過言ではない。
セフィロスも、それは痛いほど解っているのだろう……
「……あいつが……ロゼが、幸せになることだけを祈る」
ザックスは、セフィロスの表情を見て驚愕した。
言葉に出来ぬ、彼の切なくも苦しそうな表情。
遣り切れなさ残る言葉を呟きながら、セフィロスは静かに力が抜けたザックスの手から擦り抜けた。
長い間セフィロスと共にしているが、これまで一度も聞いた事の無い表情と言葉。
況してや、ローサの葬式ですら涙すら流さず、冷酷な顔で訝る言葉を残したほど。
それほどロゼを思い、苦しみを胸奥に潜める。
ザックスの背後で、セフィロスの靴の音が規則正しく響いている。
きつく歯を噛み締め、拳を握り、素早く振り返った。
「だったら、おまえがロゼを幸せにしてやれよ!愛してやれよ!!」
耳鳴りを感じさせるほど響くザックスの叫び声。
入口の自動ドア手前で、足音を止めたセフィロスは振り返らず、彼の言葉を受け取った。
「……もう、手遅れだ」
ザックスに聞こえるか聞こえないかの声で言葉を残し、セフィロスは外へ出て行った。
ふわりと靡く彼の銀髪を目にし、ザックスは悲痛な思いで静かに見つめていた。
――――嘆きの過去
悲痛な現実……
夢とトラウマが、いつまでも螺旋を画く
哀切を極めた物語は、永遠に終わらない……
To Be Continued
2006-12-10