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闇のように暗い病室。
ひっそりとした中、時折不気味な音が響く。
ベッドに横たわり、天井を一点に見つめるロゼはひたすら身体を強張らせていた。
独りぼっちの空間。
縛られるような恐怖、哀しみと苦さに胸が締め付けられる。
独りは慣れていた筈。
なのに、何故こんなにも寂しく、人を恋しいと思うのだろう……
慣れてしまった身体。
それは、セフィロスだけのもの。
だからこそ、全てを捧げてもいい。
「セフィ……ねぇ、怖いよ……」
動きが鈍った身体。
小さく呟く。
一体、何が怖いのか……
独り残された今。
病に苦しむ自分。
変わりゆく"彼"……
セフィロスにとっても、ザックスやアオイに対しても、自分の存在はまるで邪魔でしかない。
監獄のように暗く小さな部屋に閉じ込められることを嫌悪していたが、他人に迷惑を掛けるしかないのなら自らそれを望む。
決して、捨てられたくはない。
過去を……思い出す。
不安と苛立ちに、瞳から涙が溢れ出した。
生きる意味のない存在。
それでも、あたしは生きていたい。
セフィロスに、愛されたい……
まるで今の悲しみから逃れるように、ロゼの身体は衰退し、少しずつ意識を失っていく。
*****
大きな薔薇の花束を片手に、セフィロスはロゼの病室の前に立ち尽くす。
今更会ったところで、何を言えばいいのか?
在り来りな言葉すら思い浮かばない。
またロゼが傷つき、それと同時に自分も傷つくことに怖れを抱く。
瞳を細め苦悩に満ちていると、突然扉が開いた。
「セフィロス……?」
顔を覗かせたのはザックスであった。
これまでロゼの見舞いすら拒否していたセフィロスが、まさか来るとは思いもしなかった。
同時に、歓喜の感情も湧き上がってくる。
「あ……ロゼさ、今眠ってて……まあ、入れよ」
無言で立ち尽くすセフィロスを、ザックスは強制的に病室へと招いた。
仕方なく、彼はそれに倣う。
相当悪化しているのだろうか?
ロゼの身体に、たくさんのコードやチューブが纏わりついていた。
呼吸も上手く出来ないのか、酸素マスクが宛がわれている。
ロゼの心音が、モニターから一定に音を出す。
「ちょっと用事思い出したから、暫くロゼ頼むわ」
片手を顔の前に出し、ザックスは笑みを残して、病室から出て行った。
恐らく彼なりに気を遣っているのだろう。
余計なことを、とセフィロスは口元だけの笑みを浮かべた。
再びロゼに視線を向ける。
彼女の、微かな吐息が聞こえた。
「ロゼ……」
小さく呼び掛ける。
深い眠りに落ちているのか、ぴくりとも動かない。
いつも身近に在った、ロゼの寝顔。
今では、こんなにも遠い存在……
痩せゆくロゼの頬に触れようと右手を伸ばした。
が、寸前のところで止める。
――――触れてはいけない……
ふと思考が過ぎた。
しかし抑えきれぬ衝動に駆られ、ゆっくりとロゼの左頬に掌を当てた。
小さな体温、そして鼓動……
懐かしさと、違和感ある感情が芽生える。
少しでも気を緩めると、酷くロゼを抱き締め壊してしまいそうだ。
「ずっと、おまえを傷つけてばかりだった。それでも、おまえはいつも笑っていてくれた……」
そっと、ロゼの頬に口付けをする。
甘く優しいキス……
ゆっくりと唇を離す。
相変わらず動かぬロゼだったが、セフィロスは暫くその姿を見つめていた。
やがて口元を緩めると、静かに部屋を出て行った。