[Dolls] -rose- | ナノ

【Dolls】-rose-

11. 裏切 (3/6)

*****



アオイが退院して間もなく、ロゼは彼女に付き添われて入院した。

覚悟は決めていたものの、さすがに緊張を隠せないのか、ベッドの上に座りながら辺りを幾度か見回す。
彼女の緊張を解す為にと、アオイは極めて明るく楽しい話題を繰り出した。
そのお陰か、次第に笑顔を取り戻す。



「あのね、ザックスともよく話し合ったんだけど……」


ロゼが落ち着いたところで、口調を変えずにアオイは話を続けた。


「ロゼが好ければ、私たちの養子にならない?」

「えっ……あたしが?」


驚きを隠せないロゼ。

意味を知らない訳ではない。
戸惑いを隠せないのか、頬を両手で覆い瞳を泳がせる。


「私がロゼのママになるなんて可笑しいけどね。でも、この子には優しいお姉さんが必要だわ」


そう言いながら、アオイは自身の腹を優しく撫でる。
身寄りの無いロゼを思い、彼女の将来も考えて。

恐らく、セフィロスを見限ったのだろう。


「直ぐに答えなくていいのよ。ロゼが落ち着いてからでも」

「アオイちゃん、ありがとう!」


アオイの言葉が終わる前に、ロゼは満面の笑みを浮かべ答えた。
強い眼差しで見つめられる。


「アオイちゃんの気持ち、すっごく嬉しい。でも……」

「……でも?」


迷いが無い、彼女なりの決意を決めた瞳。
その意思を、より強めるものとは……



「一番好きな人の傍に居たいの。アオイちゃんなら、わかるでしょ?」


アオイは思わず口元に両手を覆い、純粋なロゼの想いに一驚した。

どんなに汚されようとも、どんなに苦しい思いをしようと、ロゼの想いは強く衰えることは無い。
それどころか、逞しく育ってゆく真意。

これほどまでに、セフィロスを熱愛するロゼ。
叶わぬ思いと解っていながらも、何故そこまで彼を想うのだろう……



「……あなたが、そこまで彼を思うのなら」


ロゼが幸せになる道とは到底思えない。
強くロゼの幸を願っているからこそ、アオイは胸が痛い。

だが、彼女の気持ちを一番に尊重してやりたい。

ありがとうの言葉の変わりに、目を細め笑うロゼ。
この美しく汚れを持たぬ無垢な彼女の姿を、今すぐにでもセフィロスに伝えたい……


しかしロゼの強い想いとは裏腹に、彼女の身体を侵す病は一向に悪化していった。





*****





――――数日後



「重態?……ロゼが?」


暫し任務やら出張で連絡すら取ることが出来なかったセフィロスを、ザックスは漸く捕まえると、直ぐにロゼの経緯について話す。
さすがにセフィロスも、ロゼの病がそこまで悪化していたことに驚きを隠せない。


「ああ。入院してから直ぐに悪化した。もう、殆ど手の施しようがないって……」


顔を俯け、暗く悲しい声を出すザックス。
彼らしくない表現に、事は重大だと察する。

だが……



「……そうか」


セフィロスは静かに呟く。
再び、デスクの書類に目を通し始めた。


「ロゼの……命に関わることなんだぞ?!」

「もう俺には関係のないことだ」


怒りに満ちる全身。
ザックスは嘗てない苛立ちを覚えた。


「いい加減にしろ!もう、ローサはいないんだ……もう……アイツは死んだんだよ!!」


怒りのあまり、ザックスは思わず彼を傷つける言葉を吐いてしまった。

酷く震える彼を、冷静なまま見つめるセフィロス。
静かに書類をデスクに置くと、重い唇を開いた。


「……おまえに、愛する者を失った苦痛がわかるか?」


静かに、低い声が脳内で木霊する。

重なり合う視線が、痺れるほど痛い。
セフィロスが放っている痛みか、それとも心を失った彼の悲しみか……


「わからない……だけど、今でもローサを思うなら……もう、二度とそんな思いをロゼには……」


セフィロスから視線を逸らしながら、ザックスは心中重い感情を口にした。
だが、セフィロスはそれに答えず、小さな沈黙が室内に流れた。

暫くして……



「……ロゼは、死ぬのか?」


ザックスは驚いた。

闇より暗く冷たいセフィロスの瞳が、こちらまで悲しくなってしまうほどの痛嘆さを物語るように見えた。
恐らく、本人は気付いていないだろうが……


「セフィロス、おまえ……まさか……」


ローサを失った時と同じ感覚なのだろう。
いや、ロゼを失うことに怖れを抱いているのか?

氷のように硬く、冷たいセフィロスの表面の中には、今にも崩れそうな感情が溶け始めている。


「この感覚は一体……こんな、空虚な感情に侵されるとは……」


嫌らしく苦笑いを浮かべ、言葉に嘆く。

認めてしまえば、許されぬ想いを断ち切れなくなる。

無垢な身体に、罪を施した。
愛も与えず、心まで奪った……

復讐の為の"人形"に過ぎないロゼ。


一体、いつからこんなにも自分の心まで狂わせるようになったのだろう。


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