[Dolls] -rose- | ナノ

【Dolls】-rose-

11. 裏切 (1/6)

裏切り者は嘲笑う
裏切り者は心を壊す
裏切り者はヒトを殺す
裏切り者は消え去る
裏切り者は地に還る


所詮、人間最後には自分が大事だ

だから俺は人形裏切









第11話【裏切】
〜decadence〜







陽が暮れ、静かな空気だけが流れる夜。
閑散とした廊下に、やがて大きな足音が近付いてくる。

コツコツと急ぎ足で響く足音の主は、角を曲がったところで立ち止まった。



「……セフィロス!」


病室の前の長椅子に並んで座るザックスとロゼ。
軽く息切らせて来たセフィロス。
彼を視界に入れると、ザックスは立ち上がった。

同時に、ロゼも久しぶりの対面となる彼を見つめる。
その視線に直ぐ気が付いたセフィロスは、一瞬だけ彼女に目を向けるが、また直ぐに視線を外す。


やっと会えた喜びが、一瞬で散った。

思わず顔を俯けるロゼ。
苦しい感情が、心を縛りつける……



「アオイの様子は?」


出張先から一報を聞いて飛んできたのだろう。
彼は大きな黒鞄を手にしていた。
淡々とアオイの具合を尋ねる。


「……ただの過労だって。お腹の子も異常はないらしい」

「そうか……」


セフィロスは小さく頷くと、大きく呼吸を整え、乱れた髪を片手で掻き揚げた。


「また、何かあったら連絡してくれ」

「っ、おい!ちょっと待てよ」


そう言い残すと、背中を向け去るセフィロス。
早々と歩いていく彼を、ザックスは慌てて追い掛けた。

茫然と二人の姿を見送るロゼ。
痛む胸を抑えながら……








「待てって!」


ザックスがセフィロスに追い付き、彼の肩を強く掴む。
振り返るセフィロスは、煩わしい表情を浮かべた。

大きな息を吐くと、ザックスは口を開く。


「……ロゼは、どうするんだよ?」


珍しく口調が厳しいザックスだったが、セフィロスはわざと視線を外した。
いちいち答えるのも面倒な故、身体も背ける。


「……俺は、あいつを手放した」

「ふざけんな!何でアオイが倒れたのか、わかってんのか?」


放任したと言うセフィロスに怒りを覚え、ザックスは思わず彼の胸倉を激しく両手で掴む。


自分を慕う可愛いロゼを思い、アオイは彼女の面倒を快く受け入れた。
見も知らぬ病に苦しむロゼを、腹に子を抱えながら夜な夜な看病もしていた。

恐らくアオイにとって、腹の子もロゼも同じように愛しているのだろう。
彼女の頑張りが限度を越え、遂に倒れてしまった事実。


何故、セフィロスはロゼを手放したのか。
あれだけ愛しみ、尚必要以上に閉じ込めていた。

大人になった"人形"は、不要になったのか。
それとも、想いを重ねるローサに適合しなくなったからか……



「要らないのなら、捨てればいいだろう?」

「……っ!!」


口元を上げ、死んだような瞳で見下ろすセフィロスに、ザックスは怖れを抱きながら憤怒した。
無意識に拳を作り、空中に突き上げた時だった。


「……ロゼ?!」


ザックスの視界に、壁を盾に恐る恐る自分たちの様子を窺うロゼの姿が入った。
正体を見つけられ、びくりと大きく身体を震わしている。

まさか、これまでの話を聞かれていたのだろうか?

ザックスは慌ててセフィロスを解放し、ロゼに駆け寄る。


「……どうした?何かあったのか?」


極めて明るく笑みを作るザックスに、ロゼはしどろもどろになりながら口を開いた。


「……ア、アオイちゃんが……目を、覚ましたって……」


か細いロゼの声が、小さく響く。
視線を合わすことも出来ずに、遂には俯いてしまった。

落ち着かせる為、ザックスがロゼの頭に優しく手を置いた。
同時にロゼは顔を上げ、セフィロスを見つめる。


冷たい視線。
もう、自分の知らない……セフィロス。

時間が止まったかのように、セフィロスとロゼの視線が重なり、互いの動きが静止する。
やがて、セフィロスは背を向けると早々と出口へ向かった。


「あっ、おいっ!セフィロス!……ったく」


足音に気がついたザックスは直ぐ様呼び止めたが、彼が足を止める筈もなかった。


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