――――翌朝
「ロゼ、本当にひとりで大丈夫?」
ロゼの傍にいつも居ようと決めていたアオイだったが、この日ばかりは病院へ健診に行くことになっていた。
もちろんロゼも一緒に行くよう誘ったが、彼女がそれを望まなかった。
「大丈夫だよ、アオイちゃん。いってらっしゃい」
昨日の涙が嘘のように、いつものロゼらしい笑顔で見送ってくれた。
それに少し安心しながら、アオイは家を出た。
扉が閉まると、横に並ぶ鏡へ目を向ける。
少しやつれた自分の姿。
――――おまえは、本当に美しい……
セフィロスは言う。
だが彼の望む姿は、自分では無い。
憎らしさと儚さに、みるみる自身の表情が歪み、心が荒んでいく……
*****
笑い声が止まない。
うるさい、と言ってしまえばそれで終いだが、それが"彼女"特有のものであるからこそ、"慣れ"が生じる。
全身を走る歯痒さ。
腹の上にかかる、小さな重み。
時折、"彼女"が仕掛ける悪戯。
構って欲しいのか、それとも甘えたいのか……
暫くは放っておこうとするが、それがあまりにもしつこい為、煩わしそうに眠気を残す瞳を開けるセフィロス。
「っ、ロゼ……いい加減にしろ」
ぼんやりとする視界に入ったのは、名も覚えていないほどの派手な顔立ちの女。
ケラケラと卑俗な笑い声を残して、こちらを覗き込んでいる。
辺りを見回せば、知らぬ部屋。
思わず眉間に皺が寄る。
「ふふっ、だぁれ?"ロゼ"って……」
爪が赤く染まった女の手が、毛布を越してセフィロスの胸板に触れる。
擽ったさの原因はこれか……
女は馴れ馴れしく胸板に両手を沿え、自分の裸体を押し付けてくる。
そう言えば、この女は"ロゼ"と言った。
何故、ロゼなのか?
自分は常にローサを想い、重ねる為にロゼを抱く。
記憶も、想い出も、全てローサの為に在る。
では、何故ロゼと口走ったのか?
細く険しい目付きで女を見下ろし、その視線を窓に流す。
すっかりと太陽の光が射し、既に朝だと言う事を理解した。
無理に女を引き剥がし、床に落ちた服を手に取り素早く纏う。
つまらなそうに、ベッドの上で彼の姿を眺めていた女が口を開く。
「あなたって、笑うのね」
意味深な女の言葉に、セフィロスは静かに振り返る。
相変わらずケラケラと笑いながら、女は言葉を続けた。
「私に擽られてた時、セフィロスったら、嬉しそうに笑っているんだもん」
「笑う?……俺が?」
目を細め、睨み付けるように言葉を返すセフィロスに、女は肩を竦めながら返した。
「……そんなにイイ女なの?その"ロゼ"っていう子」
指先で毛布を弄りながら、寂しげに答える。
その意味が解らずに、セフィロスは静かに女を見下ろした。
彼の視線に気付いた女は、上目遣いでセフィロスを見上げ小さく笑う。
「それとも、大事にしすぎて抱けないのかしら?」
意地悪く笑いながら、彼を見つめる。
その言葉が何故か無性に勘に触り、表情を歪ませながらセフィロスは口を開いた。
「余計な下世話だ」
そう言い残すと、女の部屋を後にした。