電話を終えたアオイは、急ぎ足で戻った。
だが、ベンチにはロゼの姿が無い。
「……ロゼ?」
辺りを見回してみるが、どこにも見当たらない。
妙に、嫌な予感がする……
ふと目線を下に落とすと、先程までロゼが口にしていたアイスが無残にも地面に落ちていた。
その瞬間、激しい胸騒ぎを覚える。
アオイはみるみる顔色を変え、慌てて駆け出した。
*****
「おらっ!大人しくしろ!」
「いやあぁ!やだ……っ、止めてっ!!」
懸命に逃げ走ったが、小さなロゼの身体では逃げ切ることが出来ず、敢無く男たちに捕まってしまう。
人気が無い路地に引き摺り込まれ、壁に身体をぶつけられる。
激しい痛みを感じながら、それでも必死で逃げようとするロゼの腕を強く掴んだ男。
「放してっ!放してぇっ!!」
「うるせぇ、黙れっ!」
終にはロゼの口までも塞ぎ、自由を奪う。
軽く抱えられ、地面へ強制的に張り付けられる。
手も足も出ない、この状況。
忽ち湧き上がる恐怖に、身体が震え出す。
「おい……早くしろよ」
「ああ、わかってる」
ニヤニヤと卑劣に笑いながら、見下ろす男たち。
彼らの言っている意味が解らなかったが、ひとりの男がスカートの中に手を入れた瞬間、激しい悪寒が走った。
直ぐに、彼らのしようとしている事を察知する。
全身の力を使って、激しく暴れながら抵抗をした。
「うるせーな、静かにしてろ!」
押さえ付けていた男が、ロゼの頬を殴った。
思わず溢れ出る涙。
殴られた痛みよりも、恐怖と心悪さで呼吸が止まりそうになる。
「……なあ。こいつ、"人形"みたいな女だな」
「ん?……ああ、"使い終わったら"人形市で売るか?きっと高く売れるぜ」
涙でぼやける視界に、下賤に笑む男たちの醜い姿。
太腿に触れる男の手が、気持ち悪く身の毛が弥立つ。
迫り来る彼らに、ロゼは必死で抵抗しながら心中叫んだ。
――――……セフィ、助けてっ!!
*****
陽が傾きかけた頃。
仕事で疲れ、重い足取りでミッドガルの市街を歩き帰路に向かうザックスは、ふと小さな路地に目を向けた。
感じる何かの気配。
小さな、荒い呼吸。
何かから身を隠すように、頭を両手で抱え蹲る少女……
日陰ではっきりと顔は見えないが、覚えのあるその姿。
そっと、少女の傍に寄る。
ガタガタと震える少女の腕を掴んだ瞬間、甲高い悲鳴を挙げながら逃げようとした。
はっきりと見えた、少女の顔。
間違いなく、それは……
*****
「ロゼっ!!」
玄関の扉が開き、帰宅したザックスにしがみつきながら顔を俯けるロゼ。
その姿を確認したアオイは、安堵の表情を浮かべる。
「良かった無事で……怪我はない?」
優しく頬に触れ、ロゼの顔を覗くアオイ。
一旦は顔を上げるが、すぐに俯けてしまった。
頬が少し赤く腫れ、口角に血が付着していた。
微妙に身体が震えているのを察する。
「どうやら、知らない男たちに捕まっていたらしい」
全く口を開かないロゼに変わり、ザックスが事情を説明する。
思い出してしまったのか、ロゼは強く目を瞑り、一層震えが大きくなる。
「そんなっ!……それで……何か、された?」
アオイは両手で口元を覆いながら驚き、最悪の事態を仮想してしまう。
彼女の顔の傷は、恐らく何者かに付けられたものだろう。
だがアオイの言葉に、ロゼはゆっくりと瞳を開きながら静かに首を横に振る。
男たちの隙を見て、脱出したロゼ。
結局は何もされずに逃げ出せたが、負った心の傷は遥かに痛く重い。
「そう……良かった。ごめんね、ロゼ……怖い思いさせて……」
真実を知らぬアオイは、ロゼの答えに安心して力が抜けたのか、壁に寄り掛かりながら崩れ落ちた。
ザックスは壁に拳をぶつけ、ロゼを襲った男たちの苛立ちをぶつける。
ロゼも両手で顔を覆い、思い出される恐怖に戸惑いを隠せなかった。