報われない思い
苦しみを曝け出したら、何か変わるのか?
痛みを叫んだら、あいつは戻ってくるのか?
"我慢"など、意味の無い行為
だから、毎夜人形を弄んだ
隠忍する想いなど、俺には関係ない
第10話【隠忍】
〜unrequited〜
「ロゼ、お買い物に行こう」
夏も終わり掛けた、ある日。
アオイが手をポンと叩き、嬉しそうに言い出した。
長期遠征が終わっても尚、ロゼを迎えに来ないセフィロス。
解ってはいたが、苦しいこの胸の痛み。
キシキシと音を立てては、縛りを強める。
そんなロゼを気遣ってか、アオイは彼女を少しでも楽しませる為、外出を提案した。
セフィロスの家に居る時は、殆ど無いと言っていいほど外出することはなかった。
例えあったとしても、必ずセフィロスが前を歩いている。
決して並んで歩くことも無い。
"恋人"と理想とする、手を絡めることも絶無。
世間に、認められない存在……
多少不安があったが、折角なので小さく頷いた。
*****
ざわめく街中。
行き交う人々。
たまにセフィロスと街に出た時は、いつも彼の背中を追うのに懸命だった為、こうしてゆっくり辺りを見回しながら歩くのは初めてかもしれない。
ロゼはアオイの手をしっかり握りながら、物珍しそうに忙しなく首を動かしていた。
休日の為か、街は肩と肩がぶつかるぐらい混み合っている。
時折人並みに飲まれ、アオイと逸れてしまいそうだった。
外出に慣れないせいもあってか、すっかり疲れたロゼを気遣い、アオイは暫く休憩することにした。
ショッピングモールにある一角の小さな出店で、それぞれ好みのアイスを買い、近くのベンチに並んで腰掛ける。
ここ最近、塞ぎがちなロゼが嬉しそうにアイスを頬張る姿を見て、アオイは少し安心した。
その時、アオイの携帯電話が鳴る。
電波が悪いのかベンチから立つと、"ここで待ってて。"とロゼに手で合図を送り、アオイはその場から離れた。
ロゼは静かに笑顔を浮かべると、再びアイスを口にした。
雲一つ無い真青な空を見上げながら、口内に広がる甘い味。
甘い物は大好きだが、自分が今求めているものはこんな味ではない。
胸の中で、不安が日々募っていく。
それでも自分は、ただ彼が迎えに来てくれるのを待つ他なかった……
ふと、目の前に影が覆うのに気が付く。
違和感が漂う。
ゆっくり顔を上げると、ふたり分の大きな影。
知らない男が二人、厭らしく笑いながら自分を見下ろしていた。