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車を降り、ロゼの荷物が詰まった小さなバッグを片手に持つセフィロス。
俯き歩きながら、ロゼは横目に彼の左手を見た。
前例があったが、触れたい衝動に駆られ、おずおずと右手を伸ばす。
逸早くそれに気がついたセフィロスだったが、今日ばかりはと彼女の手を取った。
繋がる証。
伝わる体温。
ほんの少し頬を染めながら、ロゼは微笑んだ。
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「いらっしゃい!」
アオイが極めて明るく玄関の扉を開けた。
だが、顔を俯け上げようとはしない。
少しばかりセフィロスと離れるのが辛いのか?
それにしたって、この尋常ではない暗さ。
心配そうにロゼの顔を覗き込んだアオイが、驚くように目を見開く。
「……ロゼ、右のほっぺ赤いわよ?」
そう言いながら、セフィロスに視線を流した。
ばつが悪そうに、視線を逸らすセフィロス。
瞬間、アオイの表情が険しくなった。
「……後は頼んだ」
セフィロスは気まずそうに言い残すと、アオイに荷物を押し付けるように手渡した。
そして、素早くロゼの手を放す。
あっ、と言う小さい声と共にロゼはセフィロスを見上げる。
潤む薔薇色の瞳。
全てを見通されるような瞳が、鋭く痛い。
それから逃げるように、セフィロスは彼女を背に去っていった。
追い駆けようとしたロゼの目の前に、扉が瞬時に閉まり遮る。
その様子を、アオイは痛々しそうに見ていた。
「ロゼ……ね、あがって。ロゼの大好きなイチゴケーキ作ったの」
優しく気遣うアオイは、ロゼの手を取った。
ほっとしたのか、それともこれまで我慢していたのか、ロゼはアオイを見上げながら瞳で訴える。
「アオイちゃ……」
今にも零れ落ちそうな涙を瞳に、アオイに抱き付き泣きじゃくる。
アオイはそれをしっかり抱き止め、何度も大きく頷いた。
「まずは、その頬を冷やしましょ」
堪えていた今までの涙を全て吐き出すように、ロゼは延々と泣き続けた。