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ロゼは、喉の渇きを覚え目を覚ます。
キッチンへ向かおうと、音を立てずにベッドルームの扉を開くと、パソコンの光を浴びているセフィロスがソファーで横たわっていた。
このところ、全くと言っていいほど帰宅しないことが多かった。
多忙な仕事のせいか、それともそれを口実にロゼを避けているのか……
理由すら解らず、日々変わっていくセフィロスにロゼは空虚な心地。
どこかで、これはただの悪夢だと願う自分がいる。
早く、目覚めて……とロゼは祈っていた。
仕事の途中で眠ってしまったのだろうか?
何もかけずに眠るセフィロスを気遣ってか、ロゼはベッドルームから毛布を引っ張り出すとそっと彼に掛ける。
久しぶりに間近でみる彼の顔。
見慣れている筈なのに、何故こんなにも懐かしく思えるのか。
痛む心を抑えながら、ロゼはセフィロスを凝視していた。
そっと手を伸ばし、セフィロスの頬に触れる。
温かい感触。
こんなにも近いのに、彼の目が覚めている時は決して触れることは出来ない。
やがて、セフィロスの左手を自らの両手で握るロゼ。
その手を、自分の頬に当てた。
初めてセフィロスに出会った時、彼が触れてくれた頬。
温かく、そして優しさを感じた。
彼の許に行きたいと思った。
同じように伝わる感触。
もう、二度と触れてはくれない。
自分が"人形"ではなくなり、"女"になってしまったから……
「っ、セフィ……」
彼の意思ではないが、永らく感じていなかった彼の熱に触れられ嬉しさのあまり涙を零す。
それは、止まることを知らない。
静かに眠るセフィロスの顔を見入りながら、ロゼは小さく泣いた。
そっと彼の手を元に戻すと、下唇を噛み締めベッドルームへと戻った。
扉の閉まる音がすると、セフィロスは瞳を開く。
そう。
ロゼに毛布を掛けてもらった時から起きていた。
強制的に触れさせられた左手を、空中に翳す。
苦笑いを浮かべながら、掌を見つめた。
「何故、この手はこんなにも汚れている?」
苦しみしか与えない、憎き自分。
重なり合う、ローサとロゼ。
結局は、ローサの代わりにロゼを買った。
己自身をも誤魔化し、"復讐"と言う名で"人形"を弄んだ。
それでも自分を真っ直ぐ求め、この手に触れてほしいと乞い願う。
「おまえを愛してやれる資格など、俺にはないんだ……」
拳を作り、強く握り締める。
本当に"人形"が必要なくなれば、また売りに出せばいい。
それでも傍に置く意味は、どこかでロゼを必要としているからなのか。
だが、この手で彼女を抱いてしまえばいつかは壊してしまうだろう。
……ローサのように。
揺らめくカラダ。
しなやかに……美しく……
忘れられぬ過去。
裏切りの証。
「こんなにも、苦しいとは……」
セフィロスは額に手を当てると、そのまま眠りに落ちた。