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「セフィ!」
鍵を外す音に鋭く察したのか、小さな足音と共にロゼが玄関元で迎える。
久しぶりの帰宅。
それ故、彼女の喜びは大いに増した。
だがいつもの行為であるセフィロスがロゼの頭に手を沿えること無く、彼女の前を通過していく。
驚きのあまり、その場に立ち尽くすロゼ。
直ぐに我に返ると、慌てて彼の後を追った。
ベッドルームに入ると、セフィロスが上着を脱いでいた。
今日は機嫌が悪いのか?
だったら、悦ばせることを……
ロゼはセフィロスの前に跪き、彼の足に甘えるように顔を埋めた。
しかし、邪魔だと言うように、片手でロゼの身体を退かされる。
どうして良いのか解らず、思わず顔を俯けるロゼだったが、ふと違和感を感じた。
「……アオイちゃんに会ったの?」
妙な発言。
セフィロスは身に覚えの無い事を、何故ロゼがそう思うのかが不思議だった。
眉を顰め、黙ってロゼを見入る。
余計な事を言ってしまったのか?
だが今日アオイから電話があった時は、セフィロスに会う事実なんて聞いていない。
もちろん、彼女が隠す筈もなかった。
ロゼは尻込みながらも、口を開いた。
「だって……アオイちゃんと同じ香水の匂いがするから」
セフィロスは、敏感に感じる"女"の気配を持ったロゼに嫌気が差した。
冷たく細い目でロゼを睨むと、直ぐに視線を逸らす。
「……気のせいだろ」
そう言い残すと、セフィロスは部屋を去った。
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いつもはセフィロスの腕の中で眠るロゼだったが、数週間前からセフィロスは彼女に背を向け眠るようになった。
もちろん、ロゼを求めることも無い。
そんな彼の大きな背中を見つめながら、ロゼは眠りに就く。
悲しみを唇で噛み締めて。
しかし、今日は思い切ってセフィロスの背中に手を沿え、身体をぴったりとくっ付ける。
伝わるほんの少しの体温。
温かさに、ロゼはそっと微笑んだ。
セフィロスは、眠っていなかった瞳をゆっくりと開く。
それに気がついたのか、ロゼは甘えるように小さく強請る。
「セフィ……ねえ、抱きしめて?」
躾けられた身体。
主の為に、調教された身体。
それを求められることなく、放置されている。
例え誰かの代わりだろうとも、他の女を抱いていようとも、自分に触れてくれない寂しさが一番苦しかった。
ただ自ら"抱いて"と強請るだけが、今のロゼに取って最大の努力……
ロゼの小さな願いに、セフィロスは強く瞳を閉じ歯を噛み締める。
返答のない焦りに、ロゼは掴む彼のバスローブの両手に力が入った。
やがて、セフィロスが覆い被さる。
抱かれる嬉しさに、ロゼは頬を赤らめ大きく口元を緩めた。
だが瞳に映ったセフィロスの表情は、甚く険しかった。
「セフィ……?」
凍りつくような恐ろしい視線。
闇よりも深く何も映し出すことの無い瞳は、一体何を見ているのか。
身の毛も弥立つ恐怖に、ロゼは身体を震わせる。
恐ろしい力でロゼを拘束する。