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「ロゼ……それはね、"大人"になった証なのよ」
――――神羅カンパニー・医務室
密かに、セフィロスはロゼをアオイの許へと連れて来た。
椅子に座り、アオイの話を真剣に聞くロゼ。
離れた壁に、セフィロスは腕組みをして寄り掛かる。
「あたし、大人になれたの?」
声を喜ばせ、ロゼは瞳を輝かせる。
これまで"大人"になることに人一倍敏感だった故、喜びも一際大きい。
手を合わせ喜ぶロゼは、振り返りセフィロスへと向く。
だが、彼は直ぐに視線を外すと目を閉じた。
「だから、お腹の痛みは将来赤ちゃんが出来る為の準備だと思って耐えてね」
「赤ちゃん?!……あたしにも、赤ちゃんが出来るの?」
何と言う教養の足りなさ。
見た目もすっかり大人に近付いているのに、あまつ剰え低能な知識。
アオイは呆れるほど、セフィロスの養い方に溜息を落とした。
「あたしも、アオイちゃんと同じになれる?」
俯き考えるアオイの顔を覗くように、ロゼは声を弾ませた。
一瞬眉を顰めたが、アオイは口元を緩めると大きく頷く。
現在、アオイは妊娠していた。
その一報を聞いた時、ロゼは心から喜び、そして羨ましくも思った。
大好きな人の子を身篭り、そして共に喜びを分かち合える。
四年も前からザックスとアオイを見ていたロゼにとって、彼らはセフィロスと同じくかけがえのない大切な人達だった。
「……もういいだろう、帰るぞ」
それまで黙って聞いていたセフィロスは、早足でロゼの許へと向かうと彼女の腕を引く。
「ちょっと、セフィロス!」
ロゼの腕を引き、その場を去ろうとした彼にアオイが呼び止めた。
煩わしそうに振り返るセフィロス。
アオイは彼を睨みつけると、重い口を開いた。
「解っていると思うけど……"避妊"はしっかりしなさいね」
厳しい口調に、セフィロスは冷たい視線を送る。
しかし、アオイも負けじと続ける。
「もう二度と、ローサの二の舞には」
「うるさい!」
張り詰めたセフィロスの怒鳴り声。
ロゼは驚き、びくりと身体を震えさせる。
セフィロスは苦虫を噛み潰したように、ロゼを強く引き部屋を出た。
激しく扉が閉まる音に、アオイは大きな溜息を残した。
「どうか、ロゼに同じ思いをさせないで……」
神に縋るように、アオイは小さく言葉を残した。
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「ねえ、セフィ」
帰り道の車内にて、黙って運転するセフィロスに声を掛ける。
返事はなかったが、ロゼは話を続けた。
「"ヒニン"って、なあに?」
アオイの言葉に違和感を感じたのか、ロゼは不思議そうに問う。
セフィロスは一瞬ロゼに視線を向けたが、直ぐに戻すとやっとのこと口を開く。
「……おまえは知らなくて良いことだ」
怒りを交えたような口調に、ロゼは眉を顰めながら痛む腹を擦った。