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式は既に終わっていたが、アオイが是非ロゼに見せてあげたいと言う要望により、再びチャペルにて式が執り行われた。
新郎と新婦。
牧師。
そして招待客がふたりと言う、何とも小さな式であった。
席の最前列で、興奮しながら笑顔を絶やさなかったロゼ。
彼女の隣で、セフィロスは時折ロゼを落ち着かせるように髪や頬を柔らかく撫でながら、主役のふたりを黙って見つめていた。
本やテレビでしか見たことのない結婚式を、ロゼは終始瞳を輝かせて凝視する。
その美しいもの全てを視界に入れる為に、瞬きすら勿体無いと思ったぐらいだ。
誓いの言葉。
指輪の交換。
そして……
アオイのベールにザックスが手を掛け、後ろに捲し上げる。
そして、顔を近づけ互いの唇を重ねた。
少々照れながら口付けを交わす二人を、ロゼも頬を赤く染め上げ見つめていた。
女だったら誰でも憧れる、その一瞬。
もちろんロゼも、憧憬と願望を抱いているのだろう。
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雲一つない晴天の青空に、高い笑い声がいつまでも続いている。
ブーケを右手に、アオイの手を左手で繋ぐロゼ。
チャペルの庭園で、ロゼとアオイは先へ歩いていた。
「ロゼ、可愛くなったなぁ」
ふたりを見守るように、セフィロスとザックスは離れたベンチに腰掛けて煙草に火を点けた。
吐き出した煙と共にザックスは微笑みながら言う。
彼女がここに来て一年ほど経つが、常にセフィロスと共に過ごし、またザックスやアオイとも親密に接する。
友達と言うよりも、ロゼは家族同然。
営利なく甘え、そして自分たちを頼るロゼを、例え生活を共にしてなくともザックスは彼女を心配する。
「なあ、セフィロス。
その、さ……ずっと気になっていたんだけど、ロゼに学校とか行かせなくてもいいのか?」
長く気に掛けていたことを、ザックスは口にした。
彼女の本当の年齢は判らないが、見た目だけからすると疾うに就学している筈だろう。
況してや外見に相応しない、ロゼの幼子のような発言や行動。
身体だけは序序に成長していても、中身は何ら変わらない。
彼女の将来の為にも、社会に触れさせたほうがいいのではないか。とザックスとアオイは常日頃考えていた。
だが、セフィロスは通学どころか外出すら許さない。
「そんなもの、必要ないだろう」
セフィロスはザックスを軽く睥睨すると、遠くでアオイとはしゃぐロゼを見つめながら答えた。
ロゼを大切にするが故、"呪縛"と言う名の部屋に閉じ込める。
彼女を自分以外触れられない、触れさせない……そして自分だけに縋る様に。
それを知ってか否か、ロゼは絶えずセフィロスに添い、彼を必要とする。
そしてセフィロスも、ロゼを見つめる視線が月日を重ねるごとに柔らかくなっていくのをザックスは感じ取っていた。
「まあ、セフィロスがロゼを大事に思う気持ちも解らなくはないけど……」
天を仰ぎ、そして真っ青な空に流れ行く白雲を眺めながら呟いた。
だが、ザックスの言葉にセフィロスは軽く目を見開くと、一瞬動きを止める。
「せめて、外出するぐらい許してやっても」
更にザックスが言葉を続けたところで、セフィロスは横に並ぶ灰皿に煙草を押し付けながら勢い良く立ち上がった。
そして、横目でザックスを見ながら鋭く口元を上げる。
「……また勝手に出て行き、死なれても困るだろう?」
冷たい静寂が流れる。
口元を緩めながらも、何とも言えぬ恐ろしいセフィロスの形相……
忘れられぬ、真冬の寒い雪が降り積もるあの日。
悲しみで込み上げる胸が酷く痛く、苦しさで呼吸が上手く出来ない程だった。
だがセフィロスは俄かに笑み、口を開いた……
……あの時の笑みと、同じ。
金縛りにあったように、ザックスは身体が動かなかった。
「セフィー!」
遠くからロゼが走り寄ってくる。
セフィロスはその声を聞くと、ザックスから身体を背け、彼女の許へ歩み寄る。
視線を解放されたザックスは、先程まで身の毛が弥立つセフィロスの視線に恐れを抱いていた。
ロゼを抱き上げ、まるで恋人のように接するセフィロス。
その横でアオイが微笑みながら二人を見ていたが、ふと目にしたザックスの異変に気付き彼の許へ駆け寄った。
「……ザックス?どうしたの、顔色悪い」
「アオイ。セフィロスは未だに……いや、恐らくロゼを使って……」
ベンチに腰掛け蹲り、アオイのドレスを掴むザックスの手がガタガタと震えていた。
彼の言うことを直感したアオイは、驚愕しながら振り向きセフィロスに視線を映した。
高い位置から、華やかに笑うロゼを見つめるセフィロス。
まさか、その視線の先には……