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「…………」
数日後、セフィロスが帰宅した直ぐ後に、テーブルの上にある豪華な封筒を手にするロゼ。
難しい言葉で書かれた"それ"を、彼女は懸命に眺める。
どうせ、読めやしない。
そう悟ったセフィロスは、彼女の行為を止めること無く放置し、着替える為クローゼットへ向かう。
だが……
「……ごしょうたいじょー!」
突然、ロゼが叫び出した。
まさかと思い、セフィロスは彼女の元へと急ぎ向かった。
"招待状"と書かれた封筒を抱き締め、くるくるとその場で回るロゼの姿。
やっとの事で解読したのだろう。
これは面倒なことになった、とセフィロスは片手で顔を覆い溜息を落とす。
やがて、ロゼの手から封筒を取り上げた。
「おまえには、関係ない」
喜びから一転、どうして?と言わんばかりにロゼの顔が暗くなる。
それを横目にしながら、セフィロスは封筒を胸ポケットに押し込んだ。
「……でも、ロゼのお名前も書いてあるよ?」
これが、ザックスとアオイの結婚式だと言うのも理解しているのだろう。
細々と言うロゼに、セフィロスは視線を逸らした。
「……何も、行かせないとは言わない」
やれやれ、とセフィロスは口を開いた。
言っている意味が解らないロゼは、不思議そうな表情でセフィロスを見上げる。
「式が終わってからだが、ザックスたちに会わせてやる」
いずれにせよ、ザックスとアオイに会える。
それを聞いたロゼは、口元に両手を覆い満面の笑みを浮かべた。
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「アオイちゃーん!」
聞き覚えのある愛らしい声で自分の名を呼ばれたアオイは、即座に振り向く。
薄い桃色のドレスを纏ったロゼが、大きく手を振りながらこちらへ駆け寄ってくる姿が目に入った。
彼女の背後には、セフィロスの姿も。
「ロゼっ!」
アオイは大きく手を広げ、笑顔でロゼを迎えた。
小さなロゼの身体は、アオイの胸へと飛び込んでいく。
純白のウエディングドレスを着たアオイに包まれた感触は、柔らかく温かかった。
久しぶりに会えた喜びと、至福の今日を祝うように、互いを強く抱き締め合うふたり。
擽ったい笑い声が、辺り一面に響いた。
「アオイちゃん、おめでとう。すっごくキレイ!」
顔を覗かせたロゼが、瞳を輝かせる。
人間の厭らしさが全く見えないロゼの瞳。
それに映し出される全てのものを浄化させる。
彼女の持つ不思議な力は、セフィロス含めザックスもアオイも感じ取っていた。
「ありがとう。ロゼに祝って貰えるなんて、私は幸せ者ね」
額と額を合わせ、口元を緩めながら答えた。
微笑み合う二人に、背後から影が現れる。
「ザックスー!」
"抱き上げて。"と言うように、大きく両手を伸ばした。
それに応え、ザックスはロゼを軽々持ち上げる。
「ロゼ、久しぶりだなぁ。随分と大きくなった」
「…………」
ロゼの頭を派手に撫でるザックス。
だがロゼはいつもと違う装いのザックスが不思議なのか、彼の腕の中から全身を見回す。
「……王子様?」
やがてロゼは、ザックスの格好が自分の好きな本に登場する人物と被ると認識する。
彼女らしい発想に、アオイは口元に手を沿え笑った。
「ははっ、そうだな。オレはロゼの王子様だからな」
爽快に答えるザックスだったが、ロゼは当たり前のように首を大きく横に振った。
「ザックスは、アオイちゃんの王子様でしょ。ロゼは……」
言い掛けると、ちらっとセフィロスの顔を見てザックスにコソコソと耳打ちした。
ふたりは顔を見合わせると、ふふっ、と声を小さくして笑い合った。