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「……そうか、それはおめでとう」
リビングのソファーに腰掛け、携帯を片手に話すセフィロス。
"ロゼの指定席"に座り、静かに本を読んでいたロゼは、受話器から漏れる声に鋭く感付き、彼の元へ駆け寄る。
代わって、と言うように、両手を差し出すロゼをセフィロスはあっさり無視した。
それでも諦められないロゼは、ソファーに乗り甘えるように彼の膝の上に転がった。
いい加減それが煩わしくなったのか、セフィロスは渋々電話をロゼに渡す。
「もしもーし、もしもーし!」
覚えたての言葉で、電話口の相手に話し掛ける。
嬉しそうに、セフィロスの膝の上で笑いながら。
「もしもーし、ザックス!ロゼだよ」
"ロゼ、元気か?"と言う声が受話器から漏れるのを、セフィロスは眉間に皺を寄せて聞いていた。
「げんき。ザックスに会いたい!」
ロゼも負けじと大きな声で返す。
ここのところ、全くと言っていいほどザックスは疎か、アオイにも会っていない。
相変わらずセフィロスは多忙を極め自宅に居ない日も多いが、ロゼが生活に慣れたこともあり、終始この家に居るのが当たり前となった。
「……ロゼ、いい加減にし」
「あっ、アオイちゃん!」
注意を促そうとしたセフィロスだったが、敢無くアオイの出現によって歓喜を挙げるロゼの声に阻まれる。
話の内容からして大した事ではないが、セフィロス以外滅多に人と話すことのないロゼにとって、ザックスやアオイと話せる事は何よりも嬉しかった。
いつまでも終わらない会話を、セフィロスは無理矢理ロゼから携帯を奪う事で終結した。
「あっ、でんわー!」
「また連絡する。その時にでも」
セフィロスは淡々と電話口に告げると、電源を切った。
手を伸ばし、飛び跳ねながら電話を求めるロゼ。
直ぐに鋭い視線を送ると、ロゼは下唇を噛み絞め俯いた。
「……近い内に会える。今日は我慢しろ」
溜息と共に、セフィロスは重く吐いた。
その言葉を聞いたロゼは、瞬時に表情を明るくする。
「ほんと?ほんと?」
セフィロスの腕を両手で掴み、瞳を光らせる。
正直、セフィロスはそれが嫌だった。
ザックスはともかく、最近ではアオイと接触させる事すら嫌がる。
ロゼは、すっかり"家"と言う名の"檻"に閉じ込められている。
しかし外に出るのを望むことも訴えることもなく、ロゼは何一つ言わず日々過ごしていた。
「ねえ、ザックス何て言ったの?」
ベッドルームに向かう最中、ロゼはザックスとの電話の内容を聞いてきた。
面倒な故セフィロスは顔を顰めたが、毛布に入り込むと煙草に火を点けたと同時に答える。
「アオイと結婚するそうだ」
「けっこん?!」
毛布に頭から潜り込んで来たロゼは、嬉しそうに顔を覗かせ声を挙げた。
セフィロスのバスローブを裾を両手で引くロゼの瞳は、憧れと喜びでキラキラと輝いていた。
それを見たセフィロスは、眉を顰め鬱陶しいと言うように含んだ煙を一気に吐き出す。
そういった事に憧れを抱く年齢だろうロゼが、必要以上に尋問される事を予測していた。
案の定、煩わしいほど訊ねてくる。
それに対して、セフィロスは曖昧に答えた。
言葉を覚えたとなると、余計なことを喋られるのが何とも厭わしい。
人との会話を楽しむロゼだからこそ余計に思う。
「ぅ……んっ、セフィ……?」
何か言うより手っ取り早く、忙しなく動くロゼ唇を自分の唇で塞いだ。
長い間呼吸を止めでもしていれば、後には忘れてくれるだろう。
ロゼに、極めて苦い唾液を口内に押し流す。
嫌だと言えない代わりに、顔を歪ませ目を強く瞑る。
教えた通りに舌を絡ませ、腕を首に回してくる。
少しずつ熱を帯びていくロゼの身体。
何も語らず、ロゼの身ぐるみを剥がした。