[Dolls] -rose- | ナノ

【Dolls】-rose-

05. 呪縛 (4/5)

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夜七時。

事を済ませたセフィロスは、自宅の玄関前で立ち尽くしていた。
一輪の深紅の薔薇を持って。

手にしたそれを暫し眺め、瞳を閉じる。


やがて胸ポケットに花を差し込むと、玄関の鍵を開けた。


「セフィ!おかえりなさい」


いつもの如く、ロゼが笑顔で迎えてくれる。
そしていつものように彼女の頭に手を沿えると、更に擽ったそうに笑う。


「ねえねえ、早く来て」


セフィロスの右腕を小さな両手が引っ張り、リビングの先へ急かせる。

彼女のペースに流されず、ゆっくり歩いて向かう。
懸命に連れて行こうとする姿が、何とも可笑しい。


「おっ!ご主人様のお帰りだ」


リビングに入ってきたセフィロスを見たザックスは、ふざけながら言った。
それに気にせず、ロゼが嬉しそうに指差した方を向く。

そこには、上から下まで美しく飾り付けられたクリスマスツリーがあった。


「ロゼ、がんばったでしょ?」


首を傾げながら、甘えるようにセフィロスを見上げる。
頑張った。と言うように、セフィロスは微笑みながら頷いた。


「じゃあ、セフィロスも帰ってきたことだし、ディナーにしますか。ロゼ、手伝って」


アオイがキッチンに向かうと、ロゼも声を弾ませて返事をし、パタパタと音を立ててアオイの後についた。





リビングのテーブルに並べられた御馳走。

普段滅多に会えないザックスに会えたのが余程嬉しかったのか、ロゼは彼の胡坐の上に座り食事をする。
楽しそうに笑いながら、時折彼に食べさせて貰う。

一番甘えたい年頃なのだろう。
常日頃セフィロスはこういった甘え方をさせてはくれない為、今日に限ってロゼはたっぷりとザックスに甘えていた。


「そうそう、ケーキも作ったの」


アオイは思い出したようにポンッと手を叩くと、キッチンへ戻っていった。
甘い物、特に"ケーキ"が大好きなロゼは、声を出して喜ぶ。


「ロゼが大好きなイチゴケーキよ」


キッチンの冷蔵庫から持ってきたケーキの箱を、アオイはテーブルの上に置いた。
早く開けて!と言うように、ロゼはアオイを急かす。

ゆっくり箱を開くと、そこにはイチゴがたくさん乗った大きなホールケーキの上に、"HAPPYBIRTHDAY ロゼ"と書かれたプレートが添えてあった。


「お誕生日おめでとう、ロゼ!」


ロゼは何のことだか解らず、きょろきょろと辺りを見回している。
思ったとおりの反応に、ザックスとアオイは顔を見合わせて笑った。


「今日、ロゼがこの家に来た日でしょ?だから、今日はロゼの誕生日にしようって皆で話したの」


自分の誕生日も、そして本当の年齢も知らないロゼの為に決めたこと。
何よりも自分の誕生日なんて祝って貰ったことのないロゼは、口元に両手を添え喜んだ。

セフィロスも知っていたのだろうか。
ロゼは、ゆっくり視線をセフィロスに向ける。
何も変わらない表情だったが、ロゼは直ぐに祝ってくれるんだと直感した。


ここに来て一年。
と言うことで、一本の蝋燭がケーキに灯された。



「アオイちゃんのケーキが一番おいしい!」


口周りにクリームをつけ、大好きなケーキを頬張るロゼ。
やれやれ。と言うように、ザックスはアオイから渡されたタオルで彼女の口周りを拭く。


「……ロゼ、はしたないから下りろ」


今まで黙って見ていたセフィロスが、いつまでもザックスの膝から降りないロゼに注意を促した。
少し怒りが見える彼に、ロゼは一瞬たじろぐ。


「まあまあ、良いじゃないか。今日はロゼの誕生日なんだし」


ロゼの反応を見たザックスは、穏便に仲裁するよう柔らかく言った。
しかしセフィロスは彼の言葉が勘に触れたのか、ザックスを強く睨み付け、彼女へ視線を向ける。


「ロゼ、ここへ来い」


いつも冷静なセフィロスが珍しく声を荒げた事により、ザックスもアオイも一瞬言葉を失った。

怖々とロゼはザックスから離れると、直ぐにセフィロスの傍に寄る。
彼女の動きを目で追っていたセフィロスは、目の前に立ったロゼの腰に手を掛け反転させると、引き寄せて自分の胡坐の上に座らせた。

叱られるかと脅えていたロゼは、少しだけ安堵の表情を浮かべる。

セフィロスは自分の目の前に置いてあるケーキをフォークで掬うと、ロゼの口元へ持っていく。
それを、恐る恐る頬張る。
彼女の頬についたクリームをセフィロスは左手の人差し指で取ると、その指をロゼの唇へつける。
ロゼは両手で彼の人差し指を掴むと、ペロッと舐めた。

彼と瞳を交えたロゼは、喜悦するよう微笑んだ。
その笑顔を見たセフィロスも、ほんの少し口元を緩ませて……


ふたりの姿を黙って見ていたザックスとアオイは、冷や冷やしながらもセフィロスがロゼに対してあんなに優しく笑むことに驚いた。
多寡が"人形"と言っていたセフィロスが、内心ロゼを大切にしているんだと安心する。


きっとロゼは、セフィロスを変えてくれるに違いない。

ザックスとアオイはロゼがここに来てくれたことを心から感謝し、互いに顔を見合わせると微笑んだ。


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